第35話 お見舞い

「あ、あの、初めまして……。私、思井くんの彼女の高嶺 氷華と申します……! い、いきなり、訪ねてすいません。今日は、その……思井くんのお見舞いに……」


(な、なんだ、この状況……僕の彼女と僕の妹が唐突に対峙している……だと?)


「あわ……あわわ……お、お兄ちゃんの妄想だと思ってたき、綺麗な人がめ、目の前に……」


(おい、珠? お兄ちゃんにそれは酷くないか? 高嶺さんはちゃんと存在してるわ!)


「あの、あなたが思井くんの妹さんですか?」


「は、はい……そうですけど……。あの、本当に存在している人ですか? お兄ちゃんの妄想が日常を越えて非日常みたいな感じで存在しているとかですか?」


「ちょっと、何を言ってるのか分からない……ですけど、触ってみますか?」


「あ、足がある! 幽霊じゃないんだ! 本物なんだ!」


「……あ、思井くん! 大丈夫ですか?」


「た、高嶺さん……どうして……」


「どうしてって……そんなの思井くんが心配だからじゃないですか。それに、配られたプリントも渡そうと思って……先生に無茶を言って住所教えてもらったんです。勝手にすいません……」


「い、いや、そんな……あ、ありがとう……。あ、せ、狭いけど、どうぞあがって……」


「い、いえ、思井くんに迷惑ですので帰ります」


「い、いやいや、大丈夫だから……僕、全然元気だから……グゥゥゥゥ――」


(ヤバ、何も食べてないからお腹が……)


「あ、じゃ、じゃあ、おかゆだけ作っていってもいい、ですか? その、もしものことを思って材料……買ってきたので……」


(た、高嶺さんのおかゆ!?)


「う、うん! た、珠、早くそこどいて高嶺さんを――」


「嫌だ!」


「え……」


「い、嫌だって……高嶺さんを困らせるんじゃない。ずっと、重い荷物持ったままだと高嶺さん疲れちゃうだろ!」


「だって、知らない人は家にいれちゃダメってお母さんに言われてるもん!」


「た、高嶺さんは知らない人じゃない。僕のか、彼女なんだ!」


「彼女……やっぱり、さっきのは聞き間違いじゃなかったんだ……。この、綺麗な人が暑さで頭やられたんじゃないんだ……。っ、こんな綺麗な人がお兄ちゃんの彼女なんて信じない!」


「こら、珠! いい加減にしなさい! ゴメンね、高嶺さん……珠は放っといていいからどうぞ……あ、荷物は僕が……」


「あ、ありがとうございます……」


(うっ……高嶺さんが買ってきてくれたの、風邪で力が弱まってるのか結構重い……)


「お、お邪魔しま――」


「待って!」


「珠! いい加減に――」


「いいよ、家に入っても。でも、条件がある」


「条件、ですか?」


「うん。これ以上、お兄ちゃんの風邪を悪化させたくない。だから、先ずはお風呂に入って、身体についた菌を祓って。そしたら、部屋にいれてあげる!」


「お、お風呂、ですか!?」


「ゲホゴホッ……た、珠、何を……」


「お兄ちゃんは黙ってて。私はお兄ちゃんの妹としてお兄ちゃんを守る義務がある。相手がたとえ、お兄ちゃんの彼女でもバイ菌でも私は戦うよ!」


(……何、そのアニメに出てくるようなセリフは!? ヤバい、クラクラしてきた……)


「ま、まぁ、いくらお兄ちゃんの彼女とはいえ? 初めて、彼氏の家に来て、いきなりお風呂に入る……なんて、変態さんしか出来ないと思うから――さっさと、帰ってください。お兄ちゃんへのお見舞いの品だけはありがたく、もらっておきますので」


「~~~っ、思井くんの妹さんに変態と思われるのは嫌です……」


「そうですよね? だったら、とっとと――」


「で、でも、私は思井くんの彼女なんです! か、彼氏のお見舞いのために……お、お風呂に入ります! 綺麗になりますから、それでいいですか!?」


「ゴ、ゴホゴホ! オエッオエッ! た、高嶺さん!?」


「ほ、本当に言っているんですか!? わ、悪いことは言わないので帰った方がいいですよ?」


「で、ですが、お風呂に入りさえすれば、思井くんのためにおかゆ作ってもいいんですよね? だ、だったら、私は全然構いません!」


(真っ赤になる高嶺さん。一方で、作戦が通じなくてあからさまに落ち込んでる珠。この二人、何を言い合ってるの? あ~、ヤバい、クラクラし過ぎて倒れそう……)

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