第34話 風邪

「……っ、ハァハァ……ゲホゴホッ……あ~クソ……」


(今日が授業最終日だってのに風邪ひくなんて……テスト問題を知るためにも絶対出席しないといけなかったのに……ついてない。

 お母さんからは月曜日からのテスト本番のためにも休んでなさいって言われたし……)


「ご、ゴメンね、お兄ちゃん……私が昨日、間違ってお湯じゃなく水を出しちゃったから……」


「あ~……もう、いいよ、珠。お前が風邪ひかなくて良かったよ……」


「ふぁぁ……お、お兄ちゃん……風邪ひいてるんだから、私の頭なんて撫でてないで寝てて」


「それより、珠まで学校休んで良かったのか……? 僕は一人で大丈夫だったんだぞ」


「学校なんていいの! 小学校なんて、絶対卒業出来るんだから、休んだって問題ないよ!」


(……お前、何歳だ?)


「……まぁ、珠ももう小五だ。お兄ちゃんとお風呂に入るのもそろそろ卒業しないとダメだぞ?」


「えーー、嫌だよ!」


「嫌だって言っても……何歳まで一緒に入る気なの? 友達はもう一人で入ってるでしょ?」


「ずっと! 友達なんて知らない!」


「ずっとって……このまま、大人になっても? 珠が誰かと結婚しても僕と入るってこと?」


「うん!」


(……あ~、これは、ブラコンを拗らせてるな。甘やかし過ぎた結果か。これからは、少し冷たくしていかないとな)


「珠、お兄ちゃん疲れたから寝るよ。うつしちゃ悪いから珠は自分の部屋でいるんだぞ?」


「ここにいるよ。ここで、お兄ちゃんの看病する!」


「いいから、戻ってなさい。戻らないとしばらく遊ばないよ」


「むぅぅぅ、お兄ちゃんと遊べないのは辛いから大人しくしてるよ……」


「偉い偉い。じゃあ、静かにしててよ」


「うん……」


(……ふぅ、やっと、静かになった。

 にしても、珠の無茶ぶりには苦労するよ。昨日も、僕とお風呂に入るってきかないから、仕方なく一緒に入ったのに、間違えて水をかけられて――でも、それだけじゃ、風邪なんてひかないはず。やっぱり、毎日夜遅くまで勉強してたのが身体に毒だったのかな?

 高嶺さん……僕を待たずに行ったかな? 遅刻しなかったかな?

 あれから、毎日一緒に登校してたから今日も待ってるだろうって思って水華さんにメッセージ送ったけど――

【風邪をひいてしまったので、今日は休みます。高嶺さんに伝えてください。お願いします】

 ……無事に伝わってるかな? それだけが、心、配……――)



「……んん、今何時だろう? もう、昼過ぎ……そろそろ、お腹が――」


「えーーーっ!」


(……っ、珠の声? どうした? 今、行くから待ってろ!

 珠の声は玄関の方から聞こえてきた……クソ、足がふらついて……)


「ハァハァ……た、珠……何があっ――」


(……え、これは、幻? 僕、熱で可笑しくなってる――?)


「た、高嶺さん……?」

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