第29話 思井くんの話し方
「あ~、もう、疲れたよ~! 熱いしメンドクサイ~!」
「まぁ、そう言わずに……もう少しですし、運の尽きだと思って頑張りましょう」
「そうですよ、笠井さん。ダベーってしてないで早く終わらせましょう。そしたら、帰れるんですから」
「う~ん……あ、そうだ。ねぇ、ずっと気になってたんだけど、二人ともなんで敬語なの?」
「「え?」」
「だって、思井くんも高嶺さんもずっと敬語で話してるじゃん。なんでなの? はい、じゃあ、思井くん。理由を述べてください」
(なんだなんだ。急に手を組んで、笠井さん、警察官の尋問みたいなことしだしたぞ。
理由? 理由って言われても――)
「ん~、特にありませんね。ただ、なんとなく初対面の人には敬語で話すっていう雰囲気が僕の中にあるんですよね。それに、ほら。僕、ボッチですから」
「いやいや、ボッチとか関係ないでしょ。それに、私達、もう二ヶ月も同じクラスなんだよ? だったら、敬語じゃなくてもいいと思うんだけどな~。それに、私達同い年なんだし、敬語使われてるとこっちもなんだかむず痒いんだよね」
「そう、言われましても……」
「家じゃ? 家じゃなんて話してるの? 家でも敬語なの?」
「家だと普通に話してますよ」
「じゃあ、仲良い友達とは?」
「……仲良い友達は――いないので分かりません……」
「あ……なんか、その……ゴメンね?」
「いえ……」
(あー、変な空気にしちゃって申し訳ありません! でも、笠井さんみたいな人にはデブボッチの気持ちなんて分からないでしょう? そもそも、そんな友達がいれば今頃ボッチなんてやっていませんよ)
「あ、じゃあさじゃあさ、一回敬語やめて話してみてよ」
「ええ……」
「そう露骨そうに嫌な顔しないでさ。高嶺さんも気になるでしょ?」
(え、高嶺さんも……?
……っ、高嶺さん、ジィーっと見ないでくださいぃぃぃ)
「そうですね。思井くんの敬語ではない話し方……気になります」
「だってさ~」
「でも、なにをどう話せば……」
「無難に天気でいいんじゃない?」
「天気? 天気ぃ~? ……あ、アッチィ……ったく、最近、夏に近づいてきたせいかますます暑いな。高嶺さんもタイツ履いてるせいで足とかだいぶ蒸れて暑いんじゃない? 比べて、笠井さんは素足晒してるから涼しそうだな!」
(……あれ、なんかミスった? 高嶺さんと笠井さん顔を見合わせたまま黙ってるし……。で、でもでも、いきなり無茶な提案をしてきた二人が悪いんだからね!)
「「お、思井くん!」」
(な、なんだなんだ。急に二人に怒られたぞ? しかも、二人ともどういう訳か赤くなってるし……僕、何かしました?)
「た、タイツを履いているからと言って……べ、別に私の足は蒸れてなんかいません!」
「素足晒してるって……私、短いやつだけどちゃんと靴下履いてるよ! あえて、素足を晒してるんじゃないよ! 思井くんのえ、えっち!」
(僕はなんで怒られてるんだ? 僕はただ思ったことを言っただけなのに……。
高嶺さんのタイツ姿は正しく、その素足を誰にも見せることがない絶対領域。しかし、タイツ越しでも分かる足の形が細く綺麗だ。
対して、笠井さんは細くてスラッとした真っ白い素足が美脚だと思った。
僕は二人の素晴らしい部分を褒めたつもりで言ったのに……二人ともプクーッと頬を膨らましてるし……もう、知らない!)
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