第18話 体臭

「ムゥゥゥ~~~、遅いよ、お兄ちゃん! いったい、どこをほっつき歩いてたの!?」


(わ、忘れてた……朝、珠がすこぶる機嫌が悪かったこと……。帰ってきて、リスが口に食べ物いれてるみたいに頬っぺを膨らましてる珠を見て、ようやく思い出したよ……)


「ちょ、ちょっと、お知り合いの家でな……お話ししてた」


「嘘だ! お兄ちゃんに、家に行っていいまでのお知り合いの人なんかいない!」


「じ、実の妹ながら酷い言いようだな! お兄ちゃん悲しくなるぞ!」


「だって、そうじゃん。お兄ちゃん、学校でお友達出来たの?」


「うっ、そ、それは……」


「ほらね。やっぱり、出来てないじゃん」


(どうしよう……出来たのは出来たけど、友達じゃなくて恋人なんだよな……。妹だし、ちゃんと報告しといた方がいいのかな? ほら、ホウレンソウって大事だっていうし)


「だったら、早く帰ってきて私の相手してよ! 朝、あんなにわざと機嫌悪いように接したんだから流石のお兄ちゃんでも気づいてたでしょ?」


(確かに、朝の珠は酷かった……。全く、小学五年生だというのに『早く、起きなさいよ。糞デブ野郎』……だったもんなぁ。いったい、どこでそんな汚い言葉覚えてきたんだ?)


「あ、あのな、珠。お兄ちゃんにも用事ってものがあることを分かろうな?」


(だって、高嶺さんに家に来ないか誘われたんだよ!? それなのに、断って家に帰って妹の相手をするってそれはもはやシスコンだよ!?

 ……あ、高嶺さんのお姉さんはそうすると思うけど……僕はシスコンじゃないよ!)


「珠、子どもだから、よく分かんない!」


「はぁ、ま、昨日からボーッとしてた僕が悪いからな……いいよ、珠。相手してあげる」


「本当っ!?」


「うん。でも、先にお風呂入らせてね。汗かいっちゃって臭いから」


(調子にのって、スキップしまくった結果が……体臭、超臭い! 高嶺さんの家でこんな臭い放たないで心底良かったよ)


「うん、分かった。私、大人しく待ってる!」


「うんうん。偉い偉い。なでなで」


「えへへへ」


「そうだ。お母さんはまだ仕事?」


「うん。さっき、電話があってねもうちょっとしたら帰ってくるって」


「じゃあ、風呂の湯、残しとかないとだな~」


「お、お兄ちゃん!?」


(な、なんだ!? 急に大きい声出しながら、鼻つまんで……ま、まさか、鼻がひん曲がるほど僕の体臭、臭いのか!?)


「お、お兄ちゃんから……なんか、良い香りが……なんで!?」


(クンクン……あ、制服から、クッサイ臭いに混じって高嶺さん家の良い香りが漂ってくる……)


「も、もしかして、お兄ちゃん……本当に誰かの家に……? しかも、この香りからして相手は女の――イヤァァァァァ!」


「ぼ、僕、お風呂行きまーす!」


「あ、逃げた!」

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