第1部 9話

私達の拠点にしている街が、漸く見えてきた。


「ハァ…ハァ……ッ!!ふぐぐ、アクシズ、私そろそろヤバいかも……。お願い、代わってよ……」

「イヤだね。お前今回、俺に水ぶっかけたり魔法悪用して首絞めたりして好き放題してくれたじゃねぇか。もう少しなんだから頑張れよ」


私より遥かに筋力が高いくせに!男なんだからちょっとは持ってよッ!!

私はズリズリと、背中におぶさる重い荷物を引きずって行った。


ボロボロになったダクネスである。


今回は、爆裂魔法を使っためぐるんは自分の足で歩いている。

この一発魔法を撃つ度に倒れていたもやし魔法使いは、爆裂魔法で盛大に冬牛夏草を吹っ飛ばし一気にレベルが上がり、最大魔力容量が上がった為、一発爆裂魔法を撃った程度では魔力枯渇で倒れる事は無くなったらしい。

まあ、まだ一日一発しか撃てない事には変わりないが、戦闘後に自分の足で歩いてくれる様になったのは本当にありがたい。

私は、ほぼ原型を留めていないボロボロのプレートメイルを着た、気を失ったダクネスを引きずっていた。

冬牛夏草もろとも『エクスプロージョン』でぶっとばされたダクネスは、瀕死の重傷を負いながらも辛うじて息はしていた。

すぐさまアクシズが傷は完治させてくれたのだが、未だ目を覚まさないのでこうして私が引きずっている。


「やー、しかし何匹だっけ?めぐるんの冒険者カード、もっかい見せて!……冬牛夏草が二十三匹。確か、報酬は冬牛夏草一匹で3万だっけ。えっと、……69万!……あわわ、どうしようカズナ、城壁工事の給料4か月分以上の稼ぎだ!チョロいぞ!冒険者稼業なんてチョロ過ぎるな!」

「いやあんた、ダクネスのフルプレートが完全に使い物にならなくなったから、必要経費って事でダクネスの鎧代引いてから、皆で山分けだからね?」


アクシズは、そこまで考えていなかったらしく顔をしかめた。


「くッ……!!それじゃあ、儲けなんて殆ど無いじゃねぇかッ!!結局、家畜の肉も全部消し飛んだし、カズナが水掛けて弱らせた一匹も、爆裂魔法で驚いて逃げちまったし!焼肉はどうなったんだ焼肉はッ!!」

「いやあんた、アレに寄生されてたお肉って食べたい?」

「…………やっぱりいらない」


……しかし。


「クルセイダーの耐久力ってのは凄いもんだね。アクシズの支援魔法があったって言っても、冬牛夏草の群れは軒並み欠片も残らなかったのに」


そう言って、背中のダクネスの顔を見る。

傷を完治されたダクネスは、顔を煤だらけにしながらも、今では整った呼吸をしている。

……というか、頼むから私の肩に涎を垂らさないで欲しい。これ、もう気を失っているんじゃなくて寝てるんじゃないのか。


「彼の場合は、スキル配分が防御特化だからだと思います。物理耐性に魔法耐性、他にも考えられる防御系統のスキルは殆ど取ってあるんじゃないでしょうか。……そう考えないと、僕の爆裂魔法を喰らってホイホイ生き残られるとか、ちょっとどころじゃなく存在意義が無くなりそうです」


めぐるんがそんな事を言いながら複雑そうな顔をしていると。


「……ん。ここは……?」


背中のダクネスが目覚めた様だ。


「あ、起きた?あんたが敵を引き付けてくれたおかげで、討伐は終わったよ、ご苦労様。囮に使ったり、魔法叩き込んだり悪かったね」


私のその言葉に、引きずられていた身体を起き上がらせ立ち上がった。


「……ん、そうか。皆が無事なら、それは良かった。……カズナにも、世話を掛けたな。……………ありがとう」


そう言いながら、ホッと息を吐き私の頭を撫でた。


ちょっと、そんな少女漫画みたいな展開きたら反応に困るんですが。

イケメンに頭撫でられるとか、彼氏いない歴イコール年齢の引きこもりには刺激が強いんですが。


私が照れながらどぎまぎして大人しく撫でられていると、近づいてきた街の目の前。

そこに、目を真っ赤に充血させ、今にも私を殺しそうな勢いで、私を睨みつける男が立っていた。


そう、クリスである。


「この変態ッ!!君、俺がダンジョン探索で稼ぎに行ってる間にダクネスに何をしたあああああッ!!」


タイミングが悪いってのはこういう事だろう。丁度ダンジョン探索を終えて街に帰って来たクリスのパーティと、私達が鉢合わせたのだ。

クリスの目は私の隣にいるダクネスに注がれていた。鎧はボロボロになり、あちこちが煤だらけになったダクネスに。

ダクネスは、私の頭を撫でたまま。


「クリス、何を誤解しているのか分からないが、私は特に何もされていない。クリスがいない間にあった事と言えば……。

モンスターと対峙している時にクリエイトウォーターで頭から水ぶっかけられたり、このド変態がと罵られたり、モンスターもろとも爆裂魔法で吹っ飛ばされたぐらいだ。……うん、とっても楽しかった」

「お前俺の相方に何してくれてんのおおおおおおッ!?」

「ちちちち、違うッ!!ダクネスの言ってる事は大体合ってるけど、大体違うッ!!」



† † † † † † † †



場所を移して、冒険者ギルド併設の酒場の中。クエスト達成の報酬を、必要経費を抜いてから山分けし、漸くクリスの誤解が解けた。


「……全く。話は分かったけど、無茶し過ぎでしょ?冬牛夏草って、パーティの平均レベル10以上がクエストをする際の適正レベルだよ?君達はまだレベル10以下の人ばかりじゃないの?」


「私はレベル9」

「……ん、私もレベル9」

「僕はさっき、爆裂魔法での大虐殺でレベル13になりました」

「おっと、まさかの俺様がレベル2で最低レベル?よく考えたらキャベツ狩りでキャベツ捕まえたぐらいしかマトモに経験値得た記憶がないな」

「だ、駄目じゃん!冒険者はね、慎重に慎重を重ねるぐらいで丁度いいんだよ!勇気と無謀は違うからねッ!?全く……じゃあダクネス、もう行こう。

いくら俺が帰ってくるまで暇だったからって、こんな変な女についてっちゃ駄目だよ?」


誰が変な女だと言い返したいが、めぐるんの半ズボンを奪った前科があるから、あまり何も言い返せない。

まぁ、ダクネスもちょっと変な……いや、かなり変……いやいや、凄く変な奴だったが、パーティを離れるとなるとちょっとだけ寂しいもんだ。

ちょっとだけ。

よし、気持ちを切り替えて、是非ともちゃんとした戦士系の前衛職の人に……。


「……ん、私はこのままカズナのパーティに残るとする」


そう、私がもう少し固くなれば、私が戦士系スキルでも取って前衛二人の魔法職の後衛が二人で…………おい今なんつった。


「ちょ、ちょっとダクネス、お前何言ってんのッ!?馬鹿な事言ってないで、また俺と組もうよ!俺とのコンビほど、完璧な相性は無いってば!

ダクネスが囮になってる間に俺が敵から盗って逃げたり!俺の拘束スキルで敵を止めて、動けない敵にダクネスがその大剣でぶっ叩いてッ!!これ以上に相性のいいコンビって無いじゃんッ!!」

「ねぇ、その拘束スキルってヤツ、詳しく」

「うっさいッ!!なぁダクネス、考え直してくれよッ!!こんなパッとしない死んだ魚の様な目をした女の何処が気に入ったのさッ!!」

「……おい、あまり私をコケにしてるとあんたのトラウマになったであろう、ブーツスティール食らわせるよ」


私の言葉に、慌てて、怯えたようにダクネスの背後に回りこみながらも私を非難するのは止めないクリス。


「ほ、ほらほら!こんな事言ってくる女なんだぞッ!?分かってるの?ダクネス、こんな女と一緒に居たら益々酷い目に合わされるよ?」


おい馬鹿、そのセリフは逆効果でしょ。

案の定、ほのかに頬を赤らめた変態はもじもじしながら。


「……クリス、私はクルセイダーだ。たとえどんな目に合ったとしても弱きを助けるのがクルセイダーだ。

カズナのパーティには壁をできる人間がいない。私は、ここに必要とされているのだ。そうだろう?カズナ」


「いや、要らないよ別に」


「んんッ!!……くッ!!この女は、いちいち的確に私のツボを……ッ!!」


私のそっけない返答に、何故か顔を赤らめもじもじしているダクネスを見て、クリスがはぁとため息をついた。


「……全く、言い出したら聞かないからねあんたは。でも、酷い目に合わされたりしたら、すぐに抜けて俺の所に帰ってくるんだぞ?」

「……ん。酷い目なら、それこそ望むとこ……じゃない、クリスは心配しなくてもいい。大丈夫、またその内一緒に冒険しよう」


言って、ダクネスはクリスに笑いかけた。




「さてと。それじゃ、俺も行くね。ちょっと、ズボン脱がせ魔。君、ちゃんと俺の相方を守ってよ?」


クリスが、言いながら立ち上がる。


「いや、守るのはクルセイダーの仕事でしょ、それに私女だし。最弱クラスに無茶言わないでよ。あと、次にズボン脱がし魔って呼んだらパンイチになるまでスティール唱え続けてやるからね」

「や…やめろよぉ……」


私の返しに、クリスが泣きそうな表情を浮かべる。


「なぁなぁ、あんた盗賊だろ?どうせなら、一緒に冒険すればいいんじゃないか?」

「ですね、盗賊職はダンジョンでは必須なのに成り手が少ないクラスです。歓迎しますよ?」


アクシズとめぐるんが口々に言うが、クリスは軽く首を振る。


「いやぁ、カズナにはもう盗賊の一部のスキルを教えてるし、俺の有難みが半減しそうだから止めとくよ。

……それに、今回のダンジョン探索で、俺もまぁ、組んでも良いかなって思える連中と出会えたしな」


言って、クリスがくいっと親指を射す方には、クリスの様子をチラチラと心配そうに伺う一組の冒険者パーティ。

それを見て、ダクネスが安心した様にホッ、とコッソリと息を吐いた。

何考えているのか分からない所が多い変なヤツだが、一応友人の心配ぐらいは出来るらしい。


「じゃあな、ダクネス!その内大規模討伐クエストとかがあったら、一緒に受けよう!じゃあなカズナ、そしてお仲間の皆!じゃあ、いってくる!」


クリスはそう言って、新しい仲間の居るテーブルへ駆けて行った。

……ダクネスが、正式にウチのパーティメンバーになりました。



To be continued…

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