第18話 貴教さんと一緒に病院で待つチョコちゃん

 静まり返る病院の待合室で、私と貴教さんは座っていた。

 待合室には私たちの他にまばらに人がいる。

「ちょっとすいません。電話を掛けて来ます」

 私と貴教さんに断りを入れ、マルさんはせわしなさそうに病院の外に電話を掛けに行った。数分ぐらい経ってマルさんが戻って来ると、彼は缶コーヒーを三本手に持っていた。


「どうぞ」

 マルさんは貴教さんと私に同時に温かい缶コーヒーを差し出し、手渡してくれる。

「ありがとう。マルさん。コーヒーいただきます」

「あっ、ありがとうございます。いただきます」


 私の左隣の席にマルさんが腰を落として、私は貴教さんとマルさんに挟まれるように座っていた。


 マルさんが腕時計を何度か見ていた気がして、私は思いきってたずねてみた。


「マルさんは何か予定でもあったんじゃないですか?」

 マルさんは少し苦笑いをして首を振った。

 きっと用事があったんだ。

「大丈夫です」

 マルさんは優しく笑った。

「仕事か。これから仕事ですよね? マルさん」

 貴教さんがハッとした顔をしてから、そう告げるとマルさんは大丈夫ですと繰り返した。


「あの! ここは私と貴教さんに任せて下さい」

「ええ。僕たちがついてますから、マルさんは仕事に行って下さい」


 私と賛同した貴教さんは、マルさんに仕事に行くようにやんわりとうながした。

 マルさんはすまなさそうにお辞儀をして「何かあったら、電話かメールして下さい」と、私と貴教さんに素早く手帳に電話番号とメールアドレスを書いて一枚ずつ渡してくれた。

 マルさんは脱いでいたスーツの上着や荷物を慌ただしく抱えて、出入り口でこちらに軽いお辞儀をして病院を去って行った。




 時間がどのくらい過ぎただろう?


 数人いた待合室の患者さんたちもいなくなり、さっきまで点いていた電気が何箇所か消され少し薄暗くなった。

 病院の待合室のベンチには私と貴教さんだけが、二人並んで座っていた。








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