第2話 双子のマスターと東雲のおばあちゃん
喫茶「MOON」のドアベルが鳴る。
カラン……カラン……。
私が軽やかなベル音につられふと扉の方を見ると、この喫茶店の一番の常連さんがやって来た。
「いらっしゃいませ。
喫茶「MOON」の昼の店主は双子の兄の方で常連客の一人が来店して来たので、にこやかに出迎える。
「はいはい。また来ましたよ」
おばあちゃんは
御年81歳。
そして喫茶「MOON」の人間模様やお客さんのだいたいの情報はこの東雲のおばあちゃんが私に教えてくれたものだ。
「お好きな席にどうぞ」
「はいはい、どうもね。………あれあれ? チョコちゃん来てたんかい?」
私は東雲のおばあちゃんに小さく手を振る。
東雲のおばあちゃんは気さくな方で人見知りの私にもよく話しかけてくれていた。
今では「チョコ」ちゃんと呼んでくれる。
私の千代子という古くさい名前から、素敵なあだ名まで付けてくれた。
私はあまり自分の名前が好きじゃない。
千代子より「チョコちゃん」っていう響きが耳に心地よく、自分のことなのに親しみやすく感じられた。
不思議と明るい気分になる。
東雲のおばあちゃんに気安く呼んでもらえたら、次は双子のマスターたちが呼んでくれるようになった。
「おばあちゃん」
カウンターの隅に座る私におばあちゃんはにこやかに笑いかけて「チョコちゃん。私と一緒に窓際の席に座ってくれないかい?」
「あっ、はい。喜んで」
私は東雲のおばあちゃんの誘いに乗って窓際の席に移った。
そうしたら例の彼の席のすぐ近くのテーブルに座れた。
私はチラッチラッと眼鏡の彼を見る。
「マルさん。あの彼はマルさんだよ」
東雲のおばあちゃんは眼鏡の彼のことをそう呼んだ。
(マルさん……)
って! まさか東雲のおばあちゃんは私がマルさんの事を見ているのに気づいて名前を教えてくれたのではっ?
うぐっ。鋭い……
東雲のおばあちゃん。
私は店内を一度見渡した。
カウンターにいるマスターと目が合うと彼はにこりと微笑んだ。
昼の店主のお名前は
実はこの喫茶「MOON」は美味しい珈琲や紅茶や軽食やスイーツ目当てのお客さんと、イケメンマスターの双子目当てのお客さんが多く訪れる。
当然女子高生や女子大生や若い女性にも人気で夕方は学校帰りに寄る女子たちで混んだりする時間もある。
マスターの双子の兄の
「ご注文はお決まりですか?」
「ええ。いつものでお願いしますよ」
「はい。かしこまりました」
「あっ。私はエスプレッソを追加でお願いできますか?」
「はい。チョコちゃん」
にっこり笑うマスターの
マスターはものすごく格好いいんだけど、私は窓際の席のマルさんが気になるんだよなあ。
なんでかなあ。
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