第5話 科学とは

 両親が童心にかえって魚を眺めている間、ユキは魚などそっちのけで電気器具を眺めていた。


「これがコンセント……これが電源ケーブル……水流を発生させる装置に繋がっているのね……魔術じゃなく、科学で……」


 ユキはもともと科学に興味があったとはいえ、進学を決めるまではこうもまじまじと見学することはなかった。もっとも、魔術高等専門学校に入ってそれなりの知識を付けるまでは、ただの不思議な装置にしか見えないのだが。


 中等部までのカリキュラムには、科学は全くといっていいほど出てこない。科学という失われつつある文明があったという程度の知識と、それが今でも多少なりと使われており、一概に要らないモノではない、という程度の教育である。




 何故ユキはその【科学】に興味を持ったのか。




 ユキは子どもの頃、両親の乗る車での交通事故で大きな怪我をした。両親とも無事だったので、魔術で治そうとしたのだが、それはうまくいかなかった。そして救急車で運ばれた先の総合病院で、科学医と魔法医による治療を受けて、運良く何事もなかったかのように数日後にはけろっとしていたのだ。


 おそらく、科学だけでも魔法だけでも自分は救われなかった、とユキは思った。


 ユキが【科学と魔術の融合】という分野に興味を持ったのは、それからのことだった。


 幼少期のなぜなにを上回る勢いで、両親を質問攻めにしていた。


「これは科学なの? 魔術なの?」

「じゃあこれは?」


 両親も案外知らないことが多く、調べれば調べるほどまるで遺産のように科学はしっかりと日常生活の中に存在していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る