第4話 休日の過ごし方

 一家は、ユキの学生生活に必要な道具一式を通信販売で注文していた。


 だからといって朝から来客があるわけではない。固定電話のようにも見える、遠隔通信補助器具――これも科学と魔術の融合により作られたである――が、用向きのある相手であるユキにだけ聞こえる音を出す。


「もしもし、どちらさまでしょうか?」

「高等魔術専門学校の入学セットのお届けです。いまお届けしても大丈夫ですか?」

「あ、はいっ! リビングにお願いします!」


 宅配便がいちいち届けに来るような文化はもう完全に廃れていた。テレポートがうまく使えるなら宅配業者に就職ができる、というような世の中なのだ。


 少しして、リビングの真ん中に白い光に包まれたダンボール箱が届く。


「父さん、母さん、入学セット届いたよ!」


 ユキは嬉しそうに両親に報告して、一緒に開封することにした。


 魔力の強い両親が箱を開けようとするも、ユキがそれを制する。


「これくらいの箱を開けられなくて、何が高等魔術専門学校新入生ですか!」


 呪文の詠唱をする。まだたどたどしい。だが、がっちりと閉まっていた箱は、綺麗に綺麗に開いた。――もっとも、両親ならば箱を消してしまって中身だけにしてしまうのだが。


 中身は――


・学校指定の制服

・学校指定のカバン

・魔力チャージャー(魔力不足のときに回復するための、余った魔力を蓄積しておく道具)

・魔力筆(魔法陣などが必要なときに使う文房具)


 などなど、ユキにいかにもこれから学生になるのだという実感を与え、これからの生活への不安よりも期待が高まるようなモノが揃っていた。


 そして、早速ユキは制服を着て出かけてみたいと両親に訴える。両親はしぶしぶではあったが、何か揉め事でもあったときにまだ魔術がロクに扱えないから、という理由で3人で出かけるのであれば構わない、という条件付きで許可した。




「ねえ、水族館に行きたい!」


 ユキが言う。水族館といえばデートスポット、そういう常識も捨てていただきたい。ユキの目指す、科学と魔術の融合した世界というものにいちばん近しい公共施設が水族館なのだ。


 魚たちの体調を見たりするのは魔術でできるにしても、それをどう対処するか、また、水槽内を一定の温度に保つなどという魔術を一日中どころか24時間年中無休でおこなうことは物理的に不可能とまでは言わずとも、さすがに科学技術をある程度使った方が安上がりだということで、数少なくなってしまった発電所から優先的に電気を引いている、数少ない施設なのである。一般のご家庭ではついぞ目にしなくなってしまった、コンセントや電源ケーブルなども存在する。ユキのお目当ては、魚ではなく、電源装置だったのだ。

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