第2話 月は文学を好まない
自宅が火に包まれるおよそ一週間前。
満月の夜、カーテンから漏れる月光が部屋を満たしていた。
年の割には飾り気のない部屋。自分が選んで買ったものも、自分の個性を尊重して渡されたものもない、殺風景な子供部屋。
清潔に保たれたシーツに包まり、ヒナコは眠っていた。
時の止まったような部屋で、月からの監視に怯えるように小さな寝息だけが時の流れを証明していた。
月が雲間に隠れ、部屋が暗闇をそっと取り戻す。
それに呼応するように、ヒナコの瞼がゆっくりと開いた。
起き上がり、机に向かう。
衝立から日記帳を選び取り、丁寧に椅子を引いて腰かけた。
最初のページから、文字をなぞるように読み始める。
どの日にちも多くは書かれていない。
その日を代表するような単語が三つほど書かれており、下に一行詩が書かれている。
ただそれだけが永遠と続くだけの退屈な日記帳。
しかし、「その者」にとっては非常に刺激的で、飽きさせない物だった。
愛おしそうにページをめくり、何かを脳内でかきまぜるような時間をかけながら、日記帳を読みふける。
全てを読み終わり、満足したようにため息をつく。
一本の鉛筆を取り、日記帳に何かを書き加える。
ゆっくりと立ち上がり、丁寧に椅子を戻す。
ベットに戻り、シーツに包まると月光が再び部屋を照らした。
時を戻したように元通りになった部屋で、ヒナコの口元が怪しげに口角を上げていた。
間違え探しの答えのように、たったそれだけが違っていた。
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