第3話 そこにある、色も味もないものねだり

朝を告げる鳥の声が耳に届く。

霞がかった感覚を頼りにして鳩の鳴き声だとようやく気付いた。

ボゥボゥという重く籠った音がなぜこんなにも遠くまで響くのだろう。

重力に負けず、二階建ての窓を貫き、私の耳まで届いた鳩の音は、不可解な疑問を私に与えた。

いつもより気怠い身体に違和感を覚えつつも、体を起こして時計を見る。

長針がカチリと動き、丁度朝五時の時間を完成し終えたところだった。

まだ寝ていても大丈夫だ。

少しの幸福感を胸に感じつつ、再び目を閉じようとする。

「何かがおかしい。」

気の迷いを捨て去り、目を瞑るとくだらない考えが水面に上がる。

鳩がボゥボゥと規則正しいリズムを刻みつつ鳴き続ける。

鳥のことは詳しくはないが、きっと求愛のために鳴くのだろう。

こんな朝早くから鳴いて、迷惑なオスだ。

私が鳩のメスなら朝の幸せなまどろみの時間を妨害する不届きなオスに魅力は感じないな。

なんて、一銭の得にもならないようなことを考える。

「何かがおかしい。」

そもそもなぜ鳴くのだろうか。蝉も鳥も、多くの動物は鳴く。勿論人間も。

聞き取れない、意味を理解できない音は鳴き声である。

だが、時としてその意味のない鳴き声も美しいものとして価値を授けられることがある。

カナリアのように、ウグイスのように。

たとえ意味が分からなくても、その音の美しさは聞くものを肯定的にさせる。

ならばこの鳩の鳴き声はどうだろうか。ボゥボゥというこの音はいさ

「やめて。」

さか美しさに欠けるものがあるが、そのリズム、音程の統一性には惹かれる何かがある。

少なくとも人にとって激しく害のある鳴き声であることではないのは確かだろう。

であるならば多くの鳩は駆除されているはずであり、駆除しきれないために放置されているだけなら

「これは何!?」

「あなたは誰??」

「誰が考えているの?」

「あなたは私じゃないでしょ!?」

まだしも、そこに関心を寄せる人の意思すらも少ないだろう。

無関心であるなら、駆除するまでもなく、放っておけるということだよヒナコ。

そこに初めて関心を寄せる人間がいて、考えて、初めて美しさが与えられるんじゃないか。

ねぇ、私はそう思うんだよヒナコ。

何者にも愛されなくなることは、死ぬことよりも辛いでしょう。

「何言っ」

君の尊い思いが、つぶれて、この世から消えてしまう前に。

きっと私が、君の、この世界をつぶしてあげるから。

「」





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