第44話 make a fundamental error

個人的なことですが今日誕生日なので3話投稿します。これからもよろしくお願いいたします



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基本的な、本当に初歩的な間違いを犯したのだ。

そう遊は自分自身塚原 遊を評価する。

嘗て自分の目の前で対峙した存在は自分を象った偽物なんかじゃなくて。

自分こそが自分自身の目的を邪魔する存在だったのだ。


「煩い!五月蝿い!俺が塚原遊なんだ!他の何者でもない!大体にして、俺が塚原遊じゃないならこの記憶は!一体なんなんだ!?母さんに育てられて、父さんが失踪して、元樹とと学校で初めて友達になって、それから友好の輪が広がっていって千佳を助けて卒業式をして誘拐されて取り戻そうとしてやられて涙して絶望して!その記憶がまだ脳裏に焼き付いてんだよ!そもそもなんで偽物だと俺が一方的に決め付けられなきゃ行けないんだ?!あいつが嘘デタラメを言っている怪物じゃないなんて証拠も、俺が塚原遊を貶めた証拠もないじゃないか!ただの言葉でしかない。そう、そうだ!戯言だ。くだらない。そもそも俺が塚原遊っていうのは他ならぬ俺が知っているわけで見抜けないなんてありえない。…いやそもそもあいつこそがその怪物ではないか?きっとそうだそうに違いない。危ないな騙されるところだった。結衣もちゃんと後で見つけないと…凛花にも会わないとな。あーでも、もし仮にあんな性格のやつがいたら絶交だな。うん。友達付き合いはちゃんと考えないとな。普通のやつだったら騙されて終わってたな。あー俺ってもしかしたら神に愛されてるのかもなぁって。ふふっいやー愉快愉快………騙されてたまるか悪魔め。人としての尊厳を踏み躙りやがって覚悟しとけ。後悔させてやる。そもそもアイツらも俺のことを置いていくとかどうかしてるんじゃないか?友達って言うのは情と助け合いの世界だろ?親愛も友愛も愛すべき隣人にだろ!それをよりにもよってさ、向けないなんて…俺みたいな慈愛に脊髄が生えて動き回っているような存在の俺を助けないなんてどうかしてる。正気を疑うわ。マジで。頭おかしい。そんなヤツらと一緒にいられるか。きっと頭がおかしいヤツらのことから俺の事を貶めて笑ってやろうって魂胆だったんだな。よくよく考えれば魔法とかアホらしい。『本当の自分を探しましょう』?そんなありふれた言葉、何も響かないね。怪しい宗教家が言うんだそんなセリフ。俺がそんな見え見えの手口に引っかかるか。…そんな幼稚な手に引っかかるなんて甘い考えでよく俺を騙そうと画策したもんだ。きっと陰で俺の事を馬鹿にしていたに違いない。親友だと思っていたのに!なんとも思ってないなんて人間として終わってる。喧嘩を売っているとしか思えない。でも、その無謀さだけは買ってあげるよ犯罪者ども。何が『宝物を見つけてください』だ。お前らが押し付けようとしたのは古びて錆びたただのガラクタじゃないか。誰がいるかそんなゴミ。見る価値もない。俺に不必要なものを押し付けるなよ外道ども。同情か?勝手にそっちの価値観で下すその判断はつまり俺がひとりじゃ何も出来ない奴に見えてるってことだよな?最低だな。そんなゴミみたいなヤツらの言うことなんて信用に値するわけが無い…そうだ!全部嘘。全部夢。全て忘れたらまた新しい一日が待ってる。覚めろ…覚めろ覚めろ!」


蹲って、自分に言い聞かせるように塞ぎ込む。

己が正義と疑わない姿も。

正義にこだわる姿も。

正義をひとつと見誤り、盲信する姿も。

どの姿もまるで、自分のいいようにならないと嘆く子供のようで。

歪で、歪で、今にも崩れ落ちそうで。

どうしようもなく幼稚で痛々しくて見ていられないほどだった。

それとは対を成すように。

だが、そこに歩みよる影がひとつ。

毅然とした足取りで。

泰然とした眼差しで。

その姿に何を思ったのか刺々しい口調で。


「独り善がりな言い訳もここまで来るといっそ清々しいな。責任転嫁というかこじつけもこのでくるともはや芸術レベルだ。お前の伝家の宝刀か?十八番なのか?それとも防衛本能なのか?そう思い込むことで、自分を守るための」


同じ顔が対峙する。

一人はこの世の全てが憎いとばかりに顔を歪めて。

一人は自分の勝ちを確信しているかのような堂々とした表情で。

意志と意思がぶつかり合う。


「嘘つきが何の用だ?俺を貶めようたってそうはいかねぇぞ。もうお前らに騙されないって固く誓ったんだ」


自分が正しいと信じて端から疑わない。

それに、もう一人が苦笑して。


「まぁ仮に、万が一にな?…俺たちがお前を誑かしているとして。お前は一体どうしたいんだ?」


それは疑問の形をした指摘だ。

だからどうした?という責めの言葉だ。

このやり取りだけでも何方に軍配が上がるかわかるというもの。

でもそれは片方にとっては耐え難い事実で。

必死に認めないように肩肘を張ってでも強がる。


「そんなのいつもの日常に…」

「日常ってのはあいつらがいる日常だよな?」

「……。いなくともなんの問題もない。また明日は来るだけだ」

「本当にそう思うのか?そうだとしたらだいぶおめでたい頭をしているようだ。人は孤独じゃ生きていけないんだぜ?小学生でも知ってる常識だ」

「は?一人で生きていけるだろ何言ってんだ…。友人なんか居なくても学校には行ける。親がいなくても生活していける。実際、そんなヤツらなんて歴史を掘り返せばごまんといる。そういう所からもう信用ならないって雰囲気が滲み出ているのに気づかないのか?」


その言葉は真綿で自らの首を絞めるような行為だったが、何を言っても無駄だ。

そもそも感情を制御していないまたはできない相手と話し合う時点で終着点はない。

強いていえば感情を御せば話は変わるが、理性で納得出来ても感情が納得出来ないのなら話し合う意味すら怪しい。


「…はぁ…ダメだこりゃ。完全に拗らせてやがる。意固地も大概にしとけよみっともない。あのな?友人や支えてくれる自分にとってのいわば隣人の大切さも分からないようなガキが集団生活を学ぶ場に長くいれるわけないだろ」

「詭弁だ…!そんなのッ!論理の飛躍だ!」

「残念ながられっきとした事実だ」


あとからやってきた遊が勝ち誇ったかのような顔を困惑と次第に呆れに染めてやれやれと大袈裟にポーズをとる。

その仕草がもう一方の遊にとっていやに鼻につく。

それと同時に、赤面を通り越して燃え上がる。

打ち負かしてやるという気概がありありと現れていた。


「なんなんだよ!分かった風な顔しやがって。その態度がムカつくんだよ!人に不快感を与えない。人に疑心を植え付けない。人のコンプレックスを刺激しない。その三原則を、人と接する時のマナーさえ守れないのかお前は!?」

「おいおいおいおい…せっかく人が老婆心ながらに忠告してやってんのに…無下にするなんてそれこそ人間としてのマナーがなってないんじゃないか?人の話は目を見て最後まで聞くもんだ」


二人の喧嘩はまるで子供の諍いの如く。

揚げ足を取り合い、マウントを取り、一切非を認めようとも譲歩しようとしたりもしなくなって行った。

最初は大人ぶっていた方も熱を持った相手の言葉に浮かされて遠慮も配慮も目的も無くなりつつあった。


「…そっちが先に喧嘩を売ってきたんだろ!?それを俺は言い値で買い叩いただけだ!」

「それは被害妄想甚だしいぞ」

「被害妄想だ?…妄想じゃねぇだろ…実際に被害にあってるわ。平穏な日常を侵害された。これだけでも許される行為ではないぞ。一生かけても償えない罪だ。お前らが俺の純心を弄んだ!あいつらのことも親友だと思っていたのに!」

「思いついたことを言えばいいってもんじゃないぞ。置いて行かれたのはお前のせいだ。力及ばず、追いつけなかったのもお前だ。…いや違うな。俺たちだ。俺たちは力が足りなかった。だからアイツらとは肩を並べられなかった」


お前がこうだから悪い。

だから俺が正しい。

価値観と事実の押しつけあい。

言葉の刃による応酬。

ヒートアップし過ぎて両者も引くに引けない状況になっていた。


「だからッ!あいつらは俺のそばにいっつもいたのに!おれが苦心していても、手を差し伸べてはくれなかった!才能を見せつけて、人望をひけらかして、それで俺たちに追いついて見ろといつも背中で語るだけだった!最低だと思わないのか!……元樹は生まれついての天才だ。あぁ、そうだ!俺なんかとは違う。そう在るべくして生まれてきたやつだ。あいつの周りには人が集まって、困った時も一番に頼られて華麗に事態を解決して余裕の笑み。小学校からずっとそうだ。生意気に驕ってるんだ…自分は特別な存在だって…。クラスを仕切って我が物顔で学校を闊歩してた。自信が顔に滲み出てた…。教師からの人望も厚く、成績も優秀。俺なんかとは比べ物にならない。傍らにいたあいつはそんな才能を持ちながら、取り巻きモブの俺には…特別なものは何も…」


先程の熱い剣幕とは打って変わって、底冷えするようなドス黒いナニカがその言葉にはあった。

深淵を覗いたかのような不安感。

開けては行けない扉を開けてしまったかのような焦燥感。


「……はぁ。それが本心か…醜いな」


ゆっくりと噛み締めるように吐き出された言葉。

何を意図してのことかは本人にしか分からないし、分かろうともしないだろう。


だ!俺と同じく一般の平凡な家庭に産まれたくせに、生意気に…生意気にのし上がって…努力もせずに成り上がって…ッ!元樹と双璧をなす存在になって…俺をその陰で隠して…元樹や千佳だけじゃなくて、誰彼構わず話しかけて、話しやすくて、なんなんだよ!俺のアイデンティティも何もかも根こそぎ奪っていきやがって…どうやってそれで個性を出せって言うんだよ。人に劣等感を抱かせやがって…他人に他人が心から望む物を見せつけるとかどんな神経してるんだ!」

「……」

「千佳も千佳だ。俺が助けたんだ…俺が、輪にとけ込めないアイツを手を引いて連れてきたんだ。それを今じゃ高みからふんぞり返って見下して…ッ!人をどれだけ傷つければ気がつくんだ!?そんなんだからひとりじゃ輪に入れないんだ!それを、元樹やのお陰で友達ができたからって…図に乗りやがって!ムカつく!恩を仇でしか返せないのか!」

「………」

「それに、何よりお前だ!なんなんだお前はいきなり目の前に現れて、過去と向き合おうって時にも俺の事を貶して!結果論で勝ち誇って俺が正しいって押し問答して!なんなんだ?俺の選択は尊重されないのか!?俺なんて、どうでもいいってか!?…ふざけんな!そのニヤニヤ勝ち誇ったようなでけぇ態度も、上から目線の罵詈雑言の数々も、俺を頑なに否定する事実も、その在り方すらも大っ嫌いだ!もう話すこともない、話したくもない!分かったらとっとと消えろ目障りだ!」

「…ふぅ」


目障りだと決別を叩きつけられて、遊は息をつく。

ゆっくり己の気持ちに整理を付ける。

言うべき言葉を思案して、図って、悩んで悩んで悩み抜く。

どういえば最善か。

どう言うべきか。

己の目的を果たすために。


「いいか?お前が幾ら強い言葉を使ったって俺は絶対に怯まない。それにお前がいくら俺や元樹とか、千佳や凜華の欠点をあげつらって貶したところでな、お前の長所が伸びるわけじゃないぞ。お前の優秀さの裏付けにはならねぇぞ。そんなの空虚だ。ただただ虚しいだけだ」


刺々しさの抜けきらない、それこそ棘の様に刺さる批難。


「だからなんだ!あいつらが最低ってことは変わらな――!」

「変わる!そもそもお前はあいつらにおんぶにだっこでいいのか!?良くないだろ!塚原遊!」

「――ッ!でも、だって…」

「でももだってもない!お前はあいつらの横に並び立ちたいと言っていたよな?あいつらと同じステージに立ちたいと。つまり、間近で見て、肌で感じて、お前は思ったんだ。――あいつらが羨ましいって」

「――…そんな、ことは」

「ある。断言してやる。お前は、あいつらに嫉妬した。妬んだ、嫉んだ、それほどまでに渇望したんだ…そうなんだ…憧れたんだ自分の才能で人を助けたいって。望んだんだ、人として塚原遊として認められて頼られることを。夢見たんだ憧れを抱かれるようになりたいって。あいつらは、そう、塚原遊が抱いた夢の具現化した存在なんだ」

「どうしてそんなことが言える!俺の苦しみも分からないくせに!頭ごなしに否定するくせに!」

「…それは…その……認めたくないじゃないか、自分にそんな疚しい部分があるなんて。でも、嫌でも認めちまうじゃないか…そんな人間らしい『嫉妬』と『羨望』を抱いてるって。俺も気がついたよ。あいつに突きつけられて。だからこそ俺はここにいる。お前もここにいる。過去と向き合って、自分に素直になるために。互いに認めあって、喧嘩して、ぶつかり合って。それで、俺たちでみんなの望む塚原遊になろう。俺たちの目指す塚原遊になろう。お前も俺も消えやしない。人の人として大切なもの暗い底の部分も肯定しよう。認めよう、それで、折り合いをつけてまた前に進めば、きっと…」

「…あいつらに、届く、か…。馬鹿馬鹿しい…それに、もう無理だ。折れた翼じゃ風に敗ける。あいつらのいる空にはもう羽ばたけない」

「なんで最初から無理だって決めつけるんだ?」

「…はっ!そんなの決まってるだろ…俺たちが分かり合うなんて…到底できない。。そもそも人を叩き落として、その上話を聞かせたら殴ってくるようなやつとやっていられるか?」

「…確かに、私情が入ったのは認める。でも、それだけ俺はこれに真剣ってことだぞ」


彼はどこまでも真摯に自分に向き合っている。

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