第37話 隔意さえ感じる程の美しさで

黎明を切り裂く閃光は街を明るく照らし、日々に色取りと活気をもたらす。

それから何時間とたっても空は変わらない。

真っ青な空。

吸い込まれそうなほど蒼い、蒼い空。

でも彼らの夢はどこかで埃被って眠っている。

さぁ、探しに行こう。

さぁ、その宝物に日差しを浴びせに行こう。埃を取り払い、輝かしい未来へと昇華させる為に。

もはや誰も知らない夢の続きを。

時刻は休みの初日。

正午より少し前ぐらいで、日差しが強い。

普段ならのんびりと昼寝をしたい時間台だが。


「あ、暑っ!なんで今日はこんな暑いんだよ!昨日まで春うららだったじゃん!いきなり本っ当に夏らしくなりやがって!」

「遊、耳障りだから春うららとか表現としてあってんだかあってないんだか微妙な知りもしない言葉を叫ぶな。…最近お得意の異常気象だろ。あ〜喉が乾いた…」

「自販機かコンビニとかないの?これ熱中症とかも有り得るぞ」

「まぁ目的地も近いし、自販機もそこらにあるだろ」

「暑いうえに日差しも強し。日焼け止め必須ですね」

「これどこ向かってんの?見たことある気がするんだが」

「んーっと、俺とお前が最初に遊んだ公園」


そう言って遊、元樹、叶依が向かうのは開けた場所にある公園 。

まだ角を曲がっていないからどんな公園かは分からないが、もしかしたら知っている公園かもしれない。

ここの地名は本来元いた世界とは違う開発されすぎて遊には判断がつかないが、地形は何となく覚えがある。

しかし暑さのせいか知恵熱の成果か混乱してきて頭がオーバーヒートしそうになったので道端の自販機に金を突っ込み清涼飲料水を買う。

ちなみに通貨はどちらも同じだった。

元樹も叶依も喉の乾きを覚えていたのかそれぞれ水やお茶を買っていた。

オーバーヒートしていた頭が冷たい清涼飲料水でクールダウンされる。

一息ついた一行は角を曲がりきり、視界に公園を納める。

遊を既視感デジャブが襲う。


(ここは、!!あの日千佳が攫われた公園っ!!)


目を引くのはブランコ。

確かあれはあの日も、あの忌まわしき日に二人で座っていた。

隔意さえ感じるような程美しく、それでいて残酷な景色思い出の残滓

その記憶を取り繕う偽りは剥がれ落ちてしまった。

醜態を覆い隠すベールは何者かによって剥がされてしまった。


「ここだぜ、遊。覚えているか?それとも解らないか?ここが俺たちの出発点。良くも悪くもここから始まったのさ…」

「当時はそれはとても辛いことでした。だって当たり前だと思っていたことが呆気なく崩れ落ちるのは、とても怖かったです」


まるで小さな子に物語を読み聞かせるかのように優しく語りかけてくる。

悲壮感を漂わせながらも場を和ませようと無理して明るい口調にしているのはバレバレだ。

だが誰も何も突っ込まない。

三人とも言われずとも知っているのだ。

そこに突っ込んだところで満足な回答なんてなくて。

ただひたすらに自らの心を削る行為だということを。


「あの日も俺らは待ち合わせをして、そこら中を駆け回って、新しい発見に目を輝かせながら一日を終わっていく予定だった。何の変哲もない日常生活なんだよ」

「それを壊したのが──」


そこまでお膳立てされれば猿でも気がつく。

つまりは千佳が攫われた事が彼らを夢へと突き動かしたのだろう。

つまりは、同じことが起こったのだろう。

千佳が攫われて、助けられなかった。

だからこそ、彼らの夢は


(――いやは打ち勝つこと。宿命に。運命に。相手が魔法を使うからなんだ。相手が自分に出来ない事ができるからなんだ。出来ないならなにか別の事を。力が足りないならみんなで足し合わせて超えるだけだ。才能なんかに負けるか)


この過去がどの世界線でも共通なのかはたまたここだけの話なのかは皆目検討もつかない。

でも確かなことは結衣がナニカを知っているということと、現状を打破するためには記憶を集める他ないということだ。

そして、自分が諦めた瞬間に幸せは訪れないということも知っている。

その覚悟の美しいこと。

その心意気は隔意さえ感じる程の美しさで魂の輝きを放つ程だった。


「警察にははぐらかされたがな。独自のルートを辿った結果国際魔導犯罪組織『オロス』だという事がわかった。そして、それが数年前に壊滅させられていることも。…この国も優秀な魔道士がいるもんだな…。復讐に燃えていた俺たちにとっちゃ悲報なのか朗報なのかよくわからず枕を涙で濡らしたこともある」

「結局、何故千佳ちゃんが攫われたのかも分からず仕舞いです。当事者構成員は即殺害しなければならないほど危険な組織が何故一般人と言っても差し支えない千佳ちゃんを狙ったのか分からないままです。そして、もちろん、千佳ちゃんの行方も…」

。でも俺たちは、俺たちの夢を諦めたわけじゃない」

「たとえ私たちに魔法の才能がなくても、補って余りあるほどの友情を持ってますから」


誇りは胸にあると彼らは大きすぎる夢を掲げて言う。

それ以外の何も残っていないのに。

そんな状況を心配して「大丈夫だよ」「なんとかなるよ」と無責任に同情を投げかける輩がいた。

自分は何もせずに面白そうだからと周りを取り囲む輩がいた。

それが彼らへの侮辱だとも知らずに。

誇りに泥を塗る行為だと自覚もせずに。

のうのうと気ままに宣う。

そして自分の状況を客観的に見て、判断できるほどには彼らは賢かった。

それでもこの世の残酷さで、彼らの彼らたりうる矜恃を穢すことなく研ぎ澄ましてきた。

そしてようやく振るう時が来たのだ。

彼らの努力が実るのだ。

いや実らせるのだ。

何としてでも。

それまでの積み上げてきたの努力に賞賛を送る者がいた。

そして「もういいよ」「もう充分だよ」と自分の価値観と都合を押し付けるものもまた、いた。

そしてそれを見て、義憤にひっそりと唇を噛み切る者もいた。

それら全ての思惑をぶち壊すために擱座している夢を立ち上げて凱旋するのだ。

英雄思い出の中の大切な少女鎮魂歌レクイエムを奏でるのだ。


「だから遊」

「――遊君」


二人の視線に、その瞳に込められた熱量にクラっと目眩を起こしそうになる。

先程までの暑さなんて比べ物にならないほどの熱意。

決してめることの無い熱意の話。

やはりどこに行っても彼らは彼らで変わらない。

それがたまらなく嬉しくて。

何度確認しても、とても嬉しくて。

そんな取り留めのないことが堪らなくて。

だからこんな馬鹿なことでも、彼らがやる事に惹かれるんだろう。


「もう一度、俺たちの夢を」

「私たちの悲願を」

「「共にみよう」」


本当に最高の親友たちだと再認識する。

何度も何度も新鮮味を帯びて。

確かにここは自分の知らない世界かもしれない。

一時の夢かもしれない。

けれど例え夢の中であっても彼らの期待を裏切れない。

夢であってもやられっぱなしは性にあわない。

だからこそ声高々に宣言しよう。

何度でも告げてやろう。

運命クソッタレ野郎に。

決して屈しないと。


「もちろん!俺も連れてってくれ!」











夢に目覚めたあなたは一体何を見るの?

場所は始発よりの終点で、目指すべきものは何?

目的地は遠い過去で。

線路を結ぶのは約束。

偽りは切符代わりに提示して辿り着くのはやがての未来。

夢のために現実を捨てて、夢の中で現実のために夢を捨てて。

なりたい自分にはなれたの?

それでもあなたは満足なの?

人にとって一番耐え難い嘘は自分が自分につく嘘なのに。

流れに身を任せては辿り着けない場所に待ち人がいるのに。

そんなことをしていたらいつかあなたは必ず壊れてしまう。

欺瞞で塗り固めた現状はいとも容易く崩れ落ちる。

――気づいている?あの娘の呼び方が

――知ってる?魔法は身近にあるってこと。

――自覚しているの?あなたの常識が贋作ってこと。

――本当はわかっているんでしょ?真実はどの現実世界とも違うって。

彼を信じた自分が愚かだったのだろうか。

あぁ、今となっては愚かだろう。

だが間違ったとは思わない。

でもさらに愚かなのはこのまま滅びる運命にあることを粛々と受け入れること。

信じるというのは必ずしも待つという行為を指すのではない。

手助けをするのも信じているが故。









そう言って私は、彼を信じた私を正当化しようとすることからも、私の中にも小さな悪魔は潜んでいるのだろう。

醜い、醜い心の悪魔が。

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