うたかたに焔(6)
かくして、アストラル界に存在し、物質世界の核を成していた神木ダアトは焼失した。炎は、根を通じて神木ダアトと結合していた神木ケテルと神木マルクトをも焼き尽くし、両木と枝を絡ませ天を支えていた他の神木にも及んだ。支えを失った世界は形を保てなくなり、やがては塵と消えた。【神木ダアトと人間との接触は、滅びを招く】。皮肉なことに、神がダアトの自我を奪い、人間から遠ざけたことが、かえってかの世界を滅びに導いたのだった。
けれども奇妙なことに、その記録は【記録】として現存している。滅びを、すべてが死に絶えた世界を、見つめていた者がいたのである。
狂った神木ダアトの精神部は、神木そのものが失われた後も存在し続けた。何者でも在れなくなった【彼】は、長い時の中をさまよい続け、やがて、新しい世界の種子となる――これが、現行世界の創世記のはじまりだ。
焼失したはずの神木ダアトの精神部がなぜ本体とともに失われなかったのか。それについては諸説ある。精神部が本体から独立してしまっていたためだとか、ひとの形に練り上げた際に混ざりこんだ不純物のためだとか……。学者らの空想は色とりどりだが、母親らは皆、ベッドの上の我が子に、こう聞かせる。
――命を奪われた少年の残した呪いなのかもしれないね、と。
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