時計塔のリリス(6)

 今より少し昔の話、一人のからくり職人がいた。


 彼はその腕を見込まれ、彼の生きる町にとってとても重要なある役目を与えられた。それが、時計塔の命を繋ぐ、『クロッカー』という仕事だった。

 彼はぜんまいを守るべく、それを預けるための人形をつくることにした。紫色の瞳を持つ人形は彼の娘に良く似ていて、彼を喜ばせた。そして、出来上がった人形にぜんまいを差し込むと、不思議なことに、命が吹き込まれたように自由に動き出したのだ。彼はそれに大層驚き、同時に深く興味を持った。


 それから少し後のことだ。彼は、妻を失った。不幸な事故だったという。遺体も帰って来ず、その詳細さえ知らされないまま、男はただただ悲しみにくれた。

 生き残った幼い娘も、事故の影響で四肢を失っていた。このまま辛い思いをしながら生きるくらいなら、いっそ……絶望した男の目に、時計塔のぜんまいが映る。

 ぜんまいは、この世界を司る時計塔の一部だ。それを自分勝手な事情で用いることなど、到底許されるはずがない。だが男は、縋るようにぜんまいを手に取った。


 ――何に代えてでも、彼女を……愛する娘を、守ってやりたかった。


 そうして男はからくりの手足とぜんまいを、大切な娘に与えた。


 しかし、そんな彼を人は嘲笑った。娘のからくりの手足を指差し、”偽物”だと謗ったのだ。男は娘を抱きしめて、周りの悪意から逃げるように、部屋に閉じこもるようになった。


 ――いつか娘にも、彼らの言った言葉の意味が理解できる日がくるだろう。同じ人間なのに、偽物だ、欠けているのだと罵られる日が。そうなるくらいならば、いっそのこと……


「おまえは、私の”最高傑作”なんだよ。……リリス」


 幼すぎた愛娘――リリスは、疑いもせず彼の言葉を信じ込んだ。

 そうして男は、嘘を吐きつづけた。胸の痛みをこらえながら。リリスが彼の嘘に気づく瞬間――全てを失うその時を恐れながら。

 そうすることしか、できなかった。

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