24……ティを愛したがってる身体の証拠
間が空いた。
「あー」とイザークはポンポンティティの肩を叩いてまた子供扱いをした。
むっつりしたティティに真顔で答えた。
「俺の一部がティを愛したがってる証拠」
「ふうん」なんとなく撫ででみる。水に濡れたのにもう熱い。不思議がるティティにイザークは目をつぶって背中向けと告げて来た。
「いいけど.....よくわからない人ねー」文句垂れた後ろでイザークは静かになった。小さな呻きに振り返りたかったがいう通りに背中を向けて壁を見る。水は静かに流れて消える。
「もういいよ」
振り返りざまにぎゅうっと体温に包まれた。イザークは
大きな息を吐き出すと、ティティの肩に顎を乗せた。
「俺とつがいになれよ。この世界で生きて行くために」
「うん....」
ティティは抱きしめられたイザークの腕に指先を埋もれさせた。この世界には太陽も月もない。真っ暗かと思えば少し濁った薄い赤い空に変わって真っ白一面。
マアト神の裁きが始まれば焼け付くような緋色と闇を滲ませる空が来る。
誰もが一人が寂しいから。それにティティはイザークの呪いを背負わなければならない。
「あんたは可愛いよ」
「え? ツンツンしてるって言ったでしょ」
イザークは黒髪を揺らして笑った。本当よく笑う。
「ツンツンしてる顔も可愛いが、未体験に噛み付いてさ、素直に驚くティティが新鮮。呪いを味わったり、水に浮いたり。くるくる表情変えてさ、素で可愛いって言ってんの」
(さて、これはからかわれているのか、可愛がられているのかどちらだろう)
――未体験が新鮮なんて、思いもしなかった。ティティは今までの自分を思い返した。冒険心が欠如していたのだろうか。でも、危険を冒すなんて、考えられない。
ティティはじっとイザークを見上げた。
(なんだろ。怒る気が起きないどころか、イザークの破天荒な行動を見る度、驚いて、頭が真っ白になる。それで、じわりと何かが来るのよ)
泣きそうになった心を立て直して、ティティは小さく尋ねた。
「でも、地下井戸から忽然と消えたら、怪しまれるんじゃない?」
「処刑が面倒だから、永久の地下井戸に閉じ込めた。生死は勝手にしろといったところか。一帯を焼き払えと言うだろうな。そういうヤツだ。昔っからテネヴェで―」
(昔から?)ティティの視線にイザークは明確に(まずい)という表情をした。
「ねえ、ラムセスと貴方ってテネヴェで?」
「さて、じゃあ行きます、か!」
「ちょっと待って! 話はまだ、え? ちょっと! 心の準備が……っ」
イザークは同じく水に半身を浸からせると、浮かんだままのティティの腰を抱き、恰も悪人魚ローレライのように背中から水中に飛び込んだ。
(水圧が襲わないように、しっかりと抱いてくれている。本当は分かってた。イザークは、絶対にわたしを傷つけない。なのに、同じ呪いを被せてしまった。復讐なんていい気になって。バチが当たった。助けてくれないのに、報復は与えてくるの。大嫌い、神さまなんて嫌い)
外ではマアトの裁きの夜がひっそりと、世界を闇に包み込んでいる。
頬にただ、冷たい水と、揺れる感触だけを感じ、ティティは力強いイザークの腕に身を任せた。世界中の人間がティティを裏切っても、大丈夫。
(イザークだけは裏切らない。もう心で、分かっているから。ほぅら、大丈夫――)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます