23……あなたのキスは嫌いじゃない

ククッとイザークは片手で口を覆い、微かな笑い声を上げた。むっとティティは頬を膨らませた。


「笑うことないでしょ。だって、水に飛び込む機会なんてなかったのよ」


「色々飛び込んだほうがいいぜ。退屈しないだろ? それに、そっちのほうがいい」


「そっち?」意味を尋ねたティティに、イザークはまた笑った。笑顔を遠くしたかと思うと、脱いだ上着を手に水に飛び込み、潜った。水滴を手で拭うティティの前にザバァと顔を出す。


「子供みたいね あなたも」


腰を抱かれて水面で手首を優しく掴まれた瞬間、一瞬で唇を奪われる。

柔らかくて温かい。ムズムズも水中で緩やかに消えていく。それも長く安心するまでそばにいるような。


( 誠実な人は好き。呪いをかけてしまった分この人を信じよう.....もっと応えて行かなきゃ)


「ん....」

「あれ? 応えてくれるんだ?」ぷくぷくとした下唇を優しく圧されながら、ティティは腕をイザークに巻きつけた。


「応えてる? わたし」

「しっかりとね。まぁた女神にイタズラされてんのかな」


(女神?)思いながらティティはぎゅうっとイザークの背中を掴んだ。黒髪がしっとり濡れて、より綺麗に見える。


「掴まってると安心するから。ねえ もっと....欲し」


キスを強請るなんてやった覚えもない。しかしティティにはどうすれば良いのか分かってしまう。

それどころか、どうすればイザークが喜ぶかまでも。

少し唇を開けると、たまらないという感触が飛び込んで来た。


「上手だ。キスは初めてだろ」

「ん.....は....っ....でも、わかるの。ここ こうすると、イザークが近くな、る」


身をよじって唇を開くと 受け入れやすい。「では遠慮なく」と柔らかな舌先に撫ぜられて、口腔から腰がぶるりと震えた。水の冷たさも感じない。


「俺は欲しいものは全部奪うぜ?」


全身にじわりと何かが行き渡る音がする。この何かに染まりたい。だからもっとと体を近くした。

柔らかい四肢がふわんとイザークにぶつかってはイザークが埋もれる。


「だいぶ慣れたな」

「あたし 貴方のキス嫌いじゃないみたいだから」


イザークは笑って「水のほうに慣れたと言ったんだ。だが、濡れすぎだから」とティティに伝え、ザバリとティティを水揚げした。


きょとんとするティティにオオカミのように笑う。


「地下で誰も来ない。死を待つつもりはねえし、王女が誘ったなら応えてやらんと男が廃る。というか、あんたのキスが上手すぎたんだよ。手!」


ほっそりとしたティティインカの手を引き、何かに載せた。ティティは真顔で聞いた。


「さっきからの、この温かい、ゴリゴリ、なに?」

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