22……どこまでも甘ったれの王女
期待が絶望に変わった。ティティは服を握りしめたまま、背中を向けた。
「わたしに、得体の知れない水に飛び込めなんて言わないわよね? 絶対嫌よ! そもそも、貴方が死者の聖典の交渉なんて考えるからいけないの!」
聞いた途端にイザークは舌打ちした。
「どこまで甘ったれなんだかな。さすがの俺も呆れるほどの王女っぷりは見事だが」
聞いた経験もない唸り声で、イザークはティティに躙り寄った。
「ひぃ」と眼を強く瞑るティティの頬に当たったはイザークの唇だ。
(え? それだけ? 頬に口づけ? どうして?)
長い腕に抱き込まれて、ティティは眼を瞠った。(呪いをかけたわたしは、優しくされる資格なんかないのに)
さっきから唇がムズムズする。イザークの熱が残ったみたいだ。刻印された気さえする。
キスの先.....夫婦だからと過ちを許そうなんて。
(変わった人.......気になるな)
ぽん、ぽん、と背中を叩かれて、むっとした。
「わたし、子供じゃない」
「子供だよ。子供。事実や哀しみだけに真っ赤になって、先が見えずにおたおたする」
が――ん……言葉を喪ったティティにイザークはにっと笑った。
「愛してるよ」
いや いきなり言われても......ティティは戸惑って指先をグリグリしてみせる。唇はムズるし指は落ち着かない。涙目になってイザークを見ると イザークは片目だけを細めてみせた。
「ありがと......この場合は私も言うべきよね」
オタオタするほおを両手で持ち上げられて、ティティはぽ、とほおを熱くする。精悍な手がほおから後ろ頭へ動き 強く抱き寄せた。ティティの裾の長いトーブが翻った。
「いや、いずれたっぷりと戴くから。ともかく、ラムセスをぶっ殺すもぶん殴るも。ここにいたら始まらねえだろ。マアトの夜の後だから、裁きも降っては来ないだろうし。ということで」
――え? 思う間もなくティティは短い叫びとともに、腰に腕を回され、有無を言わさずイザークに湖に放り投げられた。
(わたし、水に放り投げられたことなんてない――っ。沈む、沈む沈む……あら?)
ティティは水の中でぷかりと浮いた事実に驚いてイザークを見やった。イザークは立膝に腕をかけ、人魚宜しく浮かんだティティを見下ろしている。
「浮いてる……ねえ、わたし、浮いてるの?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます