15……スカラベの呪いを兄へ!
*2*
ラムセスは螺旋階段の上で、ゆっくりと獣を撫でた。と思うと、飛び乗って一気に舞い降りて来た。
「ご要望に応えた。我が妹」
(うう、近くに来たら来たで、苛々する。圧倒されてる場合? 絶好の機会到来よ)
スカラベに爪を立てた。願いを込める時はふわりと大気に、今は深く、己の心の炎の更に奥に突き進む如く強く願う。
――ネフティス神よ、願いに応えよ。兄か何だか分からない男を連れ去れ――。
ラムセスは厭きたとばかりに背中を向け、イザークに会話を仕掛けている。手の中の宝石は赤から濃赤に染まり、黒に近づいていた。熱に掌が少し焼けた。
(お願い。あの男に復讐すると決めたの。――そうして、平穏を取り戻すのよ!)
ティティの心に呼応するかの如く、スカラベは赤く燃え上がった。イザークが予感を感じたかの如く、ゆっくりと振り返る瞬間と、儀礼鉾の何十名の名前が浮かび上がって、剥がれてゆく瞬間は一緒だった。
歪んでゆらゆらと伸びてゆく名前。一つの文字が浮かび上がった。
葦の穂・連なった麻糸・獣の肋骨・焼き上がった小麦粉の四つの聖刻文字がゆっくりとイザークとラムセスに重なる。間違いない。ラムセスの諱、見つけた!
「イホメト……だ……イ――ホ――メ――ト――……」
ティティは迷わず口にした。マアトの呪の魔除けの願いの要領で、ゆっくりとスカラベにラムセスの諱を呪い、念を込めて織り交ぜてゆく。
「宝玉呪術のわたしの力、甘く見たのがツキよ!」
取り出したスカラベはすっかり浄化されて白く濁り、如何なる念をも、受け入れるべき準備は整っていた。
「駄目だ! ティティインカ!」イザークの叫び声と共に、ティティはスカラベを高く翳した。
「現アケト・アテン王ラムセス! あんたの諱はスカラベに、運命もろとも封じ込める! ネフティス! 〝イホメト〟に天罰を!」
太陽光線とも言えるほどの激しい光の泉が暗い神殿を突き抜けた。
スカラベは熱く焼け付き、土を剥き出しにした大神殿
アペト・スウト
の床を黒く焼いた。光閃は大きく拡がり、拡散して、ラムセスとイザークを包み込んだ。
願いはスカラベの中で、小さく爆発する。呪えば星が壊れるほど、周辺の磁場をも歪ませる。
「ラムセス、闇の世界で思い知るがいいのよ! 国は渡さないから!」
――やった、か……スカラベの呪いの術は初めてだ。
ティティはぎゅっとこぶしを胸に押し当てた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます