14……兄妹喧嘩してる場合じゃないのに!
ラムセスは、今日は王の証のロブハーの紋章、アケト・アテンの歴代の統治者の名が彫り込まれている大きな儀礼
ぎれい
鉾
ほこ
を握っていた。
ジャラリと鳴るは腕に嵌めた数重にも編まれた金鎖だ。
「何よ、王どころか神気取りの勘違い嘘つき兄! ……似てないわよ、絶対」
隣には王に付き従う神獣〝ロブハー〟。虎の頭をし、鷲のような翼を持つ。尻尾は蛇のようにうねっていた。血が欲しそうな眼をしている。
「生かした生命を、謳歌しているようで何よりだ。妹よ。だが、何故ここにいる。イザーク。ここに妹を連れて来るなと言っただろうが」
イザークは「不可抗力」と肩を竦めた。
「手車に潜んでいたんだぜ。おまえと同じ、手段を問わない様子だって」
ティティは気付けばスカラベを握りしめていた。
(後はラムセスの諱
いみな
が判れば……そうすれば闇の中に引き摺り込める。ネフティス神に交渉して、この世界から連れ去って貰うのよ)
諱とは誰もが持つ魂の名前で、ぼんやりと色づいて浮かぶ古代の聖刻
ヒエロ
文字
マガグリフ
だが、ティティには詠めた。最初は、自分の諱を詠めたところから、気付いた母との秘密になった。
――このティティインカを辱めるは許さない。
(できるかも知れない)ティティはラムセスの持つ儀礼鉾に目をやった。
儀礼鉾には、歴代の王の名が連なっている。襲名したのなら、現アケト・アテン王、ラムセスも名を刻んでいるはず。
(お父様、感謝します。――貴方は、こっそりわたしに王家の秘密を預けてくれた。活路はいつだって秘密を暴くことから見いだせるのだと、教えてくださいました。落ち着くのよ。必ず、諱は見えるわ。悪諱
あくし
でもいいの。落ち着いて、ティティ)
「私があんたの言う通り、商人の妻になど甘んじていると思う? 見下ろしてないで、降りて来たら! 何よ、わたしが怖いからって高いところに逃げ込んで、みっともないわね」
「ほら、また兄妹喧嘩かよ。おまえら、本当に兄妹だよ。安心しろ、俺が保証するわ」
ティティはイザークの腕を払いのけると、ぎんとラムセスを見上げ、睨んだ。
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