その2 帰還の決定

 午後も国王ルティ報告だの決裁だので忙しい。

 しかし少しだけ人が途切れた時、国王ルティは宣言した。

「明日の朝食後、王宮住まいだった者は全員王宮へ戻る事にしよう」

『そうですね。あの移動魔法の脅威が無くなった以上、頃合いかもしれません』

 つい先程王宮魔道士長のザグロフ氏がやってきて、王宮に対する魔方陣設置終了の報告を受けた。

 これで王宮内に敵がこっそり魔法で入り込むことは不可能になる。

 つまりもう王宮外へ退避する口実が無くなった訳だ。


『何か名残惜しいですね』

「それはこっちの台詞だな。王妃も王子王女も全員そう言うだろうな。あの世界は楽しかったから」

 そう言ってくれると有り難い。

『なら一度向こうに戻って、皆にその旨を伝えてこようと思います』

「頼む。私はまだ当分動けそうに無いからな」

 そう言っているそばからドアのノック音が聞こえた。

 やはり国王ルティは大変だな。


 そんな訳でペンションに戻る。

 キッズルームなり自室なりで皆さん時間を潰している模様。

 とするとまずは皇太子あたりに話しておくか。

 キッズルームには見当たらない。

 とすると私の畳部屋だな、きっと。

 そんな訳で畳部屋を覗いてみると案の定、第三王子ワーラとプラレールで遊んでいた。


「あ、ヒロフミ殿。もう戻られたのですか」

「いえ、国王陛下はまだまだ仕事が多そうなので先に伝言に参りました。王宮に敵が侵入した方法が判明し対策が終了しましたので、明日の朝食後に皆さんは王宮に戻る事になるそうです」


「うーん、仕方無いですが残念ですね。この世界はなかなか面白い物が多くて、食事も美味しくて楽しめたのですけれど」

 そう行って皇太子殿下シャープールは立ち上がる。

「他の王家の皆さんには私から話しておきましょう」

「ありがとうございます」

 殿下は腰が軽くて助かる。

「それでは私はここの宿の主に連絡した後、また向こうへ行って参ります」

「わかりました。父に宜しく」


 さて、次はペンションのオーナーに説明だ。

 カウンターからオーナーを呼び、明日の朝食までという事で話をつける。

「わかりました。ご利用本当にありがとうございました。それで帰りはどちらかへお送りすれば宜しいですか」

「いえ、帰りはここから皆なんとかなるものでして……」

 そのついでに料金を計算して貰って支払っておく。

 結構な金額になったがそれでもホテル等よりは全然安い。

 しかもマイクロバスを借りたり色々世話になったので高いとは思わない。

 そんな訳でちょっと多めに払おうとしたのだが、それは断られた。

 うん、このペンションなかなかいいぞ。

 また機会があれば利用したい。

 私一人だと使う事も無いだろうけれども。


「あ、いたいた」

 マリエラの声がした。

「ねえおじさん。王家の皆さんは明日帰るそうだけれど、私達はどうするの?」

 勿論この件についても王様ルティと話してある。

「飛び抜けた魔法を持っているという事で事案が落ち着くまで、夜はうちに泊まるようにだと。学校へは通っていいから」


「あっ、ずるーい」

 マリエラと一緒に居た第二王女レセテ達から声がかかる。

「ごめんごめん。その代わりちょくちょく差し入れは持って行くから」

「ならここの夕食やバイキングにあったケーキという食べ物がいいわ。あんな美味しいのは王宮でも食べられないから」

生物なまもの系統だと時間停止アイテムボックスが使える分ジーナの方がいいかなあ。でもわかった」

「お願いね」

「あとはアクセサリー類もいいのがあれば」

 この辺は女の子だなあと思う。


「それじゃ王様の処へ戻るから。夕食時間までにはなんとか戻る」

「わかった。父によろしくね」

 私は再びアトラスティアへ。

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