第十一話 いわゆる戦後処理的なもの

その1 帰還の目処

 翌日も国王ルティの護衛兼輸送役としてアトラスティアへ。

 本日の国王ルティは議会では無く執務室での仕事中心の模様だ。

 誰かと会って話をしての繰り返し。

 私自身はアトラスティアの内政に関わるつもりは無いので話は聞かない。

 そうすると暇なので、国王ルティを把握出来る範囲であちこち歩き回って王宮を見学。

 何せいままでゆっくり見学なんてする余裕は無かったからな。


 王宮は西洋風の城とか日本的な城とは様式が大分異なる。

 基礎は石組みだが、建物は骨組みが木造で壁は土壁だ。

 ここまでは日本の城と同じだが、異なるのは土壁を塗った後に魔法で焼いて素焼きの陶器状に仕上げている事。

 王宮の壁は厚みが結構あるので、多少石だの槍だのが飛んできても割れずに防げる程度には頑強らしい。

 しかも調湿機能があるので結構快適と知識にある。

 

 そんな訳でここの建物の外観は地球では見られない感じだ。

 見慣れないという意味では異世界にふさわしいのかな。

 典型的な異世界の話だと西洋風の石造りの物が多いけれどさ。


 そして王宮そのものは地下1階、地上4階建ての模様。

 中の調度は木製のものが大半だな。

 兵士の武器は基本的に鉄製の槍。

 そんな事を考えながら見学していると、急に魔法の効きが悪くなった。

 急いで今より通常空間から遠い空間へ移動。


 これはおそらく魔法禁止の魔法陣の効力だ。

 異空間対応タイプが早くも完成した模様だ。

 結構離れた空間に移動したのだが、これでもまだ魔法の効きが悪い。

 これなら攻めてきた敵の魔道士やシェラ、マリエラの空間魔法では城へ強引に侵入なんて事は出来ないだろう。

 ジーナ辺りなら応用動作で何とか侵入できるかもしれないけれど。

 あの子は完全タイプのアイテムボックスも作れたし、その辺の理解力があるから。

 そんな事を考えながら国王執務室へと戻る。


 ちょうど執務室から誰か議員らしき者が出ていった。

 そして入れ違いに入ってくる者はいない。

 今なら話しかけても大丈夫かな。

国王陛下ルティ、魔法禁止魔法陣が完成した模様です』

「本当か」

『ええ。先程までいた空間ではもう魔法は使えない模様です。今いるのは今までより離れた空間で、それでも魔法の効きが大分悪くなっています』


「そうか」

 国王陛下ルティはほっと息をついた。

「ならこれで技術的な懸案事項は解決したな。あとは内政的なものだけか」

 そう、内政的にはもうこれでもかという位課題がたまっている模様だ。

 今回の事件の全容の解明。

 王弟ナールセスをはじめ関与した者の処罰。

 アマルテア帝国に対する抗議と他国に対する事案の公表。

 今回の件による論功行賞と人事異動。

 国内各所ににおける新魔法に対する設備の更新。

 勿論国王陛下一人で行う作業では無いが、王国だけに最終決裁権は国王にある。

 当分は国王陛下ルティもゆっくり休める暇が無いだろう。

 国王業はワンオペでブラックな職場のようだ。

 

 扉がノックされる。

「王宮魔道士長ザグロフです」

「入れ」

 ザグロフ氏が入ってくる。

「あの捕虜の記憶を解析した結果、あの特殊移動魔法のほぼ全容について解析が終了致しました」

 いくら相手の知識を読む魔法があるとは言え、驚異的な早さだなと思う。

 未知の技術の研究なんか、地球でやったら成果が出るまでに年単位の時間がかかるだろう。

 そういう意味でも魔法というものは便利だと思う。


「そうか、よくやった」

「元はと言えば本研究院の魔法が遅れていた事が侵攻された遠因ですから」

「いや、それでも未知の魔法をこれだけ早期に解析したのは大変だっただろう」

 うん、国王ルティは基本的に褒める主義で接するタイプのようだな。

 先程までの議員等にも厳しい事を言いつつも色々結局は褒めたり励ましたりしていたようだし。


「それでもしヒロフミ殿がおられましたら魔法禁止魔法陣の効き目を確認していただきたいのですが」

「それは既にヒロフミ殿から報告を受けている。先程から今までの異空間では魔法が使えなくなっている。効果に問題無いとな。そうであろう」

『はい。おそらく私以外の術者では最早王宮に魔法で近づくことも困難でしょう』

 この魔法音声は国王ルティとザグロフ氏双方に聞こえるように。


 ザグロフ氏はふうっと息をつく。

「安心すると同時に悔しくもありますな。この魔法陣は敵5人の知識をほぼ解析し尽くした自信作ですが、それでもヒロフミ殿の魔法は越えられないとなると」

『これ以上は宇宙や空間の性質や形状をあるていど解明しないと無理でしょう。よほどの事が無い限り、この魔法陣を破る事は不可能です』

「よし、直ちに王宮及び重要施設の魔法陣を書き換えよ」

「ははっ、畏まりました」

 ザグロフ氏は一礼して出ていった。


 国王ルティは扉が閉まった後、ふうっとため息をつく。

「これで皇太子以下も王宮へ戻す事が出来るだろう。もう少し向こうにいたいと文句が出るかもしれないがな」

「そうですね」

 これで一時的にはシェラやアミュともお別れになるのだろう。

 叙爵だの婚姻だのという話もどうなるかはわからない。

 シェラ達ともこのままお別れになる可能性すら無いわけでは無い。

 本来異世界との交流というのは望ましい事態では無い筈だ。


 きっと、お別れが正しい選択なのだろう。

 そう思っても寂しさは消えない。

 僅か数日だったけれど、それでもシェラ達がいるのが当然のような気持ちになってしまっている。

 今まで一人暮らしで寂しいとか感じた事が無い癖に。


「ところでシェラとアミュ、あと学生2人の今後についてだが……」

 来たな。

 そう思いながら私は国王ルティの話に耳を傾ける。

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