その6 おやすみなさい

 そんな訳で寝室を片付け、風も通して、シーツも替えられるものは変えた処で。

「お父さん、上がりましたけれど何処ですか」

 シェラの声が聞こえた。

「わかった、今行く」

 寝室に使っている二階の南側の部屋から下のリビングへ向かう。


 二人ともさっきまでの服装とは微妙に違う服装だった。

 こっちは下着という事なんだろう。

 シェラの胸のぽっつんが見えて思わず視線をそらした。


「さて、今日は疲れただろうしもう寝よう。ところで上着は?」

「洗面所に置いておきました。明日着替えが届いたら洗おうと思います」

 なるほど、正しい判断だ。


「寝室はこっちだ」

 二人を二階の寝室へと案内する。

 階段を登っている最中、シェラが言った。

「やっぱり身体が重い気がします。重力が違うのでしょうか」

「その辺は明日二人で色々考えて見よう」

「アミュも考えるの」

「わかったわかった」

 そんな感じで寝室へ。


「このベッドを使ってくれ。二人でだけれど広さはそこそこあるし大丈夫だと思う」

 ちなみにセミダブルベッドだ。

 なぜ一人なのにセミダブルかというと、読みかけの本とかタブレットを近くに置くのに広い方が便利だから。

 決して一緒に寝る相手がいた訳では無い。


「お父さんは何処で寝るの?」

 アミュにそう聞かれた。

「隣の部屋で寝ているから、何かあったら言ってくれ」

 いくら中学生と小学生とは言え、同じ部屋で寝るのはちょっと……だ。

 さっきの風呂場での画像記録メモリーとかも脳裏に残っているし。

 そう思ったらアミュがひしっ、とくっついてきた。

「おとーさん、一緒に寝る!」


 おいおいおい。

 セミダブルでも3人はちょっと無理だ。

 それにアミュは何とか平気だけれどシェラと一緒はちょっと色々まずいような。

「アミュも知らない場所に飛ばされて、一日外でご飯も食べられないままいて不安だったんです。ですからもし宜しければ同じ部屋にいてくれれば助かります」

 シェラ、そんな事を言われると……


「わかった。これから風呂に入ってくるけれど、その後戻ってくる」

 仕方無い。我ながらこいつらに弱いなとは思うけれど。

 安心させるためにベッドの横に隣の部屋から折りたたみマットを持ってきて敷く。

 上に封筒型寝袋を置けば取り敢えず簡易寝床が完成だ。

「それじゃ風呂に入ってくるから」


 風呂に入ると共に一応安全処理はして、着替えた後に寝室へ。

 開けっぱなしの扉から静かに入ると2人とももう寝ているようだ。

 なら隣の部屋で寝た方が気楽だけれど、途中で起きたらまずい。

 照明を常夜灯にして出来るだけ音を立てないように寝袋に入る。


 まさか女の子2人を拾うなんて思わなかったな。

 それも異世界出身で、おかげで公的機関に預けることも難しい。

 まあ対策はその都度考える事にしよう。

 幸い金銭的には余裕がある。

 貯金や退職金で買った投信や外貨為替は一日あたり約一万円程度の利子を計上中。

 だから無駄遣いしない限り何とかなるだろう。

 そんな事を考えているときだった。


 すっと隣のベッドで布が動く音がした。

 シェラがゆっくりとベッドから身を起こし立ち上がる。

 そして寝ている私の枕元に立って一礼した。

「お父さん、いえタカハシヒロフミさん。本当にありがとうございました」

「何も改まって礼を言わなくてもいいよ。今日は疲れただろう。寝た方がいい」

「でも私はタカハシヒロフミさんにお礼に返せるものが何もありません」

「そんな事気にしなくて大丈夫、私も気にしていないしさ」

「でも……」

「取り敢えず寝よう。明日、服が届いたらまた色々やるしさ」

「わかりました」

 シェラが礼をしてまたベッドに戻る。


「でも本当にお礼出来る事が何も無いんです。もし私が出来る事があれば何でもします。ですからアミュだけは何とかお願いします」

「大丈夫、2人くらいなら何とかなるしさ。あまり贅沢は出来ないけれど」

「でも……」

「大丈夫、心配しなくて」


 ちょっと言葉が途切れた後、シェラが再び口を開く。

「私、怖くてもう駄目かと思っていたんです。アミュがいるからそう言えませんでしたけれど。

 転送魔法が失敗してこの世界に来た時、まずもう駄目かと思いました。何処か休める場所が無いか食べられるものはないか歩いてみたけれど固い石造りの道路と建物だけでした。疲れて2人道ばたで座りこんでいたら、何人か声をかけて来たのですが魔法で確認すると下心だらけで。

 それで怖くなって人があまりいないあの場所に逃げました。魔法を使って下心無して助けてくれる人をずっと呼んでみましたが、何時間も誰も助けてくれなくてもう駄目かと思っていました」

 あの呼んでいるような感じも魔法だった訳か。


「たまたま私が暇で家も空いていたし2人くらいなら大丈夫な余裕があった。それだけで大した事じゃ無い。

 それに放り出すつもりは無いから心配しなくて大丈夫だ。

 まずは寝て休むことだ。他は明日考えればいい」

「わかりました」

「じゃあ、お休み」

「お休みなさい」


 静かになって私は少し考える。

 下心は無かったかな、私は。

 若干あったような気もするけれど、それが主目的でなければ大丈夫なのだろうか。

 でもその若干の下心のせいで私はなかなか眠ることが出来なかった。

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