その4 服を買います
食べ終わった皿を数年使っていなかった食洗機に押し込みスイッチを入れる。
食洗機は中古でこの家を買った時からついていた。でもいままで試運転しかやった事が無い。
何せ一人だとこんなに皿を使う事は無いからな。
さて、順当に行けば次は風呂だがその前にやっておくべき事がある。
「ところで元の世界にはすぐに帰れる手段はあるのか?」
「この世界に来たのは事故なんです。本来は以前居たのと同じ世界に移動する筈でした。ですので帰る方法そのものがわかりません。それに……」
シェラは何かいいかけて口をつぐむ。
色々事情があるようだ。
「わかった。なら取り敢えず服を買うぞ。この世界に長居するなら必要だろう」
「洋服店に行くのでしょうか」
シェラは微妙な顔をしている。
「いや、最初は通信販売だ。でもその前に身長を測るぞ」
百円ショップで買ったメジャーを片手に適当な壁際へ。
「この壁にあわせてまっすぐ立ってくれ」
最初はシェラ、続いてアミュの身長を測る。
うん、シェラは155センチ、アミュは125センチか。
メモをしておいて、パソコン前へ。安物なので起動に少し時間がかかる。
「これは魔道具、いえパソコンですか」
あの魔法で知識の中にちゃんとパソコンも入ったらしい。
「こうやって画面に文字や画像が出るのは、魔法としか思えないです」
「作動原理を全部話すと面倒だから省略。今回はこれで買い物が出来るという事を利用する訳だ」
良く使った某大手通販のページを開く。
翌日に届くというところにチェックを入れ、まずはシェラから。
「ここで洋服を注文すると明日届く。ただ制限時間はあと30分以内位だけれどさ。だから急いで服を買うぞ。時間が無いから今回は主に私の一存で決める。聞かれたことのみに答えてくれ」
女の子に洋服を色々決めさせると時間がかかりそうだからな。
取り敢えず今回だけはこっち任せで選ばせて貰おう。
「まずは上着、この時期だと無難なのはポロシャツかな。色は何色がいい?」
「うーん、この中ですとピンクでしょうか」
「ピンク決定、次はスカート!」
そんな感じでばしばしと決めていく。
なお下着類は私の独断と偏見でささっと決めさせていただいた。
勿論ブラなんてサイズわかるわけない!
さっと見た目で中2平均より5センチ細身のAカップに決定。
下着類も二人とも取り敢えず五セットずつ購入。
アミュの分はもう少し簡単に決めた。
上下ほぼシェラとおそろいだ。
「さて、不服はあると思うけれど、その辺は次にお買い物をする時で勘弁してくれ。次は風呂でさっぱりして貰おう。ちょっと時間がかかるけれど待っていてな」
「それまでこのパソコンを使ってみていいですか」
「いいぞ。ただ購入とか買い物はしないでくれ。その辺は知識上大丈夫だよな」
「お父さんと同じ程度の一般常識が入っているので大丈夫だと思います」
お父さんと呼ばれるとちょっと何か変な気分になる。
でも悪くは無い。
流石にお兄ちゃんと呼ばせるには年齢にちょっと無理があるし。
さて、さっさと風呂を掃除しておくとするか。
そんなに汚れていないので浴槽の湯垢をたわしで取れば大丈夫だ。
独り暮らしだと色々と手抜きしているので、その分手間がかかる。
まあ汚部屋になっている場所は無いので多分大丈夫だけれども。
ささっと風呂を掃除して、お湯を貯め始める。
部屋に戻ると二人はパソコンに向かっていた。
アミュがマウスを持って真剣な顔をしている。
何をやっているかと見てみたら、キッズ用のゲームページだった。
「よく見つけたな」
「色々押してみたらこの画面になりました。でもこのマウスという装置、慣れないと結構難しいです」
「アミュは出来るよ!」
見るとマウスで迷路を辿って脱出するゲームだった。
「そう言えばアミュも言葉を覚えさせたのか?」
「二十歳未満は言語に対する知識が完成していないので、言語魔法を使ってはいけない事になっています。アミュはまだ十八歳ですからやっていません。でもお父さんは私の知識でアトラ語がわかるので、自然に通じたのだと思います」
そうなのか。
そう思って気づいた。
「アミュは十八歳なんだ」
「ええ」
そう言ってからシェラはふと考え、そして頷く。
「ミーラクと地球の一年の長さの違いはわかりません。でもミーラクの年数でアミュは十八歳、私は四十三歳になります」
おいおい、それじゃ私はシェラにお兄ちゃんと呼ばれても大丈夫な年齢……
なんて考えた自分に思わず脳内ツッコミを入れる。
どう考えても無理だろ! 見た目で判断しろ!
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