その3 夕食を食べました

 知識と冷蔵庫の中との調整の結果、ハンバーグとコーンクリームスープ、ピラフに野菜炒めという組み合わせになった。

 久しぶりにきちんと盛り付けをしてテーブルへと運ぶ。

 いつもは一人だから丼に全部のせて食べていたりする。

 でも一応お客様だから普通の盛り付け程度には皿を分けておこう。


「とりあえず夕食にしよう」

「すみません。いきなりなのにこんなに用意していただいて」

「細かい話とかは後だ。まず食べてから考えよう。食器は取り敢えず使いやすいように使ってくれ」

 箸なんてのは慣れていない限り不便だものな。

 そんな訳で一応スプーンとかフォークも用意してある。

 ハンバーグは柔らかい奴だからナイフはいらないだろう。


「それでは、いただきます」

 彼女はそう言って頭を小さく下げ、そして食べ始めた。

 それを見て小さい方も勢いよく食べ始める。

 とりあえず知識的には向こうの世界の食事もわかっているが細かい味とかは別だ。

 だから口に合うかどうか心配だったが、どうも大丈夫のようだ。

「おかわりは用意出来るから、遠慮せずに言ってくれ」

 ピラフは念の為多めに作ったし、ハンバーグは冷凍がまだ在庫が残っている。

 スープは粉末スープだから作るのは簡単だ。


 さて、小さい方の食べっぷりがすごい。

 さっき一日食べていないとか言っていたから飢えていたのだろう。

 ハンバーグは中サイズを二つずつだったのだが、あっという間に無くなる。

「待っていてくれ。おかわり分を焼いてくる」

 かなり食べそうだし女の子の分もあるので四個フライパンへ。

 ガンガンに強火で焼いて、概ね五分も焼けば完成だ。

 四枚全部を皿に入れて持って行く。


「おまちどう様。好きに食べてくれ」

 小さい方がさっと一個取った。

 見るとピラフも無くなりかけている。

 こいつ見かけ以上に食べるな。

「ご飯の方も持ってくる」

 残り全部を皿に山盛りにして、大きいスプーンをつけて持って行く。

「こっちも好きなように取って食べてくれ。遠慮しなくていいから」

 女の子の方もいい感じで食べている。

 二人の口にはあったようだ。

 

 さて、食べながら私は今の状況を頭の中で整理する。

 さっきの魔法で私にも向こうの世界の言語情報が入っている。

 でも個人情報とかそういったものは入っていない。

 あくまで語彙や文法等、言葉を使うのに必要な知識だけだ。


 でもその知識で確認してわかる事がある。

 彼女達が来たのは日本の何処かでも外国でも無い。

 地球以外の世界、いわゆる異世界という処だ。

 魔法があって、その代わり科学技術は産業革命以前の水準の模様。

 政治制度は王政か、宗教国家か、豪族による連合国家。

 そこら辺までは語彙で見当がつく。

 でも異世界からこの世界に来た理由はわからない。

 異なった世界間の移動は一般的では無いようだし。


 そこでまだ名前を聞いていない事にふと気づいた。

「そう言えば二人の名前を聞いていないな。私は高橋たかはし弘文ひろふみという」

「私はシェヘラザード、妹はアミュティスと言います。それぞれシェラ、アミュと呼んでください」

「わかった」

 シェラとアミュか。取り敢えず覚えたぞ。


「タカハシヒロフミさんは普段は何とお呼びすればいいですか」

 少しだけ考える。

「本当なら高橋さん、あるいはおじさんなんだろうけれどな。シェラの知識の中に誘拐って単語が入っているよな。外で高橋さんとかおじさんと呼ばれるとそれと誤解される可能性が高いから、嘘になるけれどこの世界では『お父さん』と呼んでくれ。抵抗があるなら別だけれど」


 シェラはアミュと少し話した後、こっちを向く。

「私もアミュも本来の父とはほとんど会った事がありません。ですので問題は無いです。お父さん、でいいですね」

「ああ、そう呼んでくれると特に外では助かる」

 別に私にそういう願望がある訳じゃ無い。

 あくまで警察とかおせっかいな一部の人に対する防衛策だ。

 他意は無い。きっと無い。


 さて、あとは今後どうするかだ。

 異世界なんて話をしても公的機関に通用しないのはわかっている。

 さっきの魔法を使って個人には理解して貰えても機関として扱うのは無理だ。

 ああいった公的機関は基本的に法律や条令で動く。

 定められていない事に柔軟に対処しろなんて言っても中の人が困るだろう。


 私が保護するのが一番手っ取り早い。

 でも外聞だの法律的要件だのはどうしよう。

 シェラは中学生に見えるし、アミュも小学校くらいの外見だ。

 その辺で不審がられて福祉の連中に来られたら厄介な事になる。


 あとその前に服装も一式用意しないといけない。

 どう見てもデザイン的に普通には見えないし今の季節にもあっていない。

 これはもう少し寒くて、かつ派手な色が使えない場所の服装だ。

 素材そのものは良さそうだけれどデザイン的にも日本では一般的じゃ無い。

 買いに行ったら色々怪しまれるだろうから通販で購入しよう。

 後で身長を測ってネットで注文だな。

 幸いそれ位のお金の余裕はある。

 何せいつもお遊び半分で貧乏生活しているからな。

 これからは何かと物入りが続きそうだけれども。


 まあいずれにせよ、すぐに戻れるかどうかを聞いてからだ。

 すぐに元の世界に戻れる状況なら色々心配する必要はないからな。

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