その2 言葉を理解しましょう
家まで思ったより時間がかかった。
二人の足が遅いというか歩き方が変なのだ。
妙に踏ん張って歩いたり転びそうになったりしている。
あまりに大変そうなので途中からちびの方はおんぶした。
「大丈夫か。そんなに遠くないし、ゆっくりで大丈夫だぞ」
「大丈夫、です。身体、重い、です」
よっぽど疲れているのかな。
そう思いつつ何とか家に着く。
「ここで靴を脱いでくれ」
日本人では無さそうなので玄関でそう説明。
ついでに背負っていたちいさい方を下ろして段差に座らせ靴を脱がせる。
と、靴を脱いでいた少女の方が近づいて来た。
「動く、ない、お願い。言葉、教える、られる、魔法」
何だそれ、という間も無く顔が近づく。
おい待て、確かに君は美少女だけれど私はロリコンじゃ無い。
確かに以前、結婚しろとか色々言われるのが嫌で二次元ロリコン専門というネタを背負ったことがある。
でもあれはあくまでネタだ。
ついでに言うと某抱き枕サークル謹製のやばい枕カバーも数枚持っている。
でも本当はロリコンじゃないからキスはちょっと……えっ!?
キスではなくおでことおでこをくっつけた。
まるで熱があるときに相手の体温を測るように。
「言葉、教える、られる。我慢、ちょっと」
いきなり目の前に火花が散ったような気がした。
いや視覚では無く別の感覚だ。
音でもなく嗅覚でも無い、一番視覚が近いんだが何かもうわからないぐらいの何かの波が発光したり瞬いたりしている。
何だこれはと考える余裕も無い。
思考の余裕すら怒濤のような何かの流れで消えて行く。
動けないままどれ位経っただろうか。
ふっと思考の雪崩が終わった。
彼女の額が、手が離れていく。
まだ少し目が回っているような気がして私は両手を後ろについて座ってしまった。
彼女は考える様に少し目を瞑り、小さく頷いて目を開け、頭を下げる。
「どうも突然済みませんでした」
えっ、きちんとした日本語になっている。
しかも先程までと声も違う。
「あれ、今までとは」
「今の魔法で此処の言葉を習得させていただきました。貴方の語彙で習得したので私の言葉遣いがふさわしくない場合もあると思いますが、それはどうかお許し下さい」
魔法!?
今確かに魔法って言ったよな。
「魔法って言ったけれど、魔法って使えるのか?」
彼女は頷く。
「ええ。この世界でも使用魔力が少ない魔法は使えるみたいです。先程までの意思伝達魔法や、今使わせていただいた言語語彙収集交換魔法等ですね。意思伝達魔法は言葉に比べると不完全なので、言語語彙収集交換魔法を使わせて頂きました。突然で申し訳ありませんでした」
ちょっと頭の中を整理する。
つまり彼女が今まで使っていた不自然な日本語は意思伝達魔法。
そして今おでこをくっつけて話せるようにしたのが言語語彙なんとかという魔法。
でもこの世界に魔法があるなんて聞いた事が無い。
そう思った時点で自分の思考に新たな知識が増えている事に気づく。
今まで知らなかった言語、魔法に対する知識、そして世界に対する知識。
うん、ここ玄関で整理するような問題じゃ無い。
取り敢えず食事を取らせてから考えよう。
「取り敢えず上がってくれ。こっちだ」
寝室以外の部屋は比較的片付いている。
人をあげても何とか大丈夫な程度には。
取り敢えずリビングに案内する。
「ここで待っていてくれ。夕食を作るから」
三人だからご飯は二合あればいいかな。
でもご飯というものを食べるかは……
知識を確認した結果、ちゃんと向こうの世界でもご飯は存在していた。
ただパエリア風とかおかゆとかで、白米を炊くというのはあまりない模様。
なら洋風混ぜご飯でいいか。そう思いながら米を量る。
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