アラフィフおっさんと異世界少女

於田縫紀

プロローグ 平凡な四月の金曜日

その1 少女二人を拾いました

 最近は野菜が高い。

 なので少し質が悪いが安い八百屋でキャベツを購入する。

 スーパーの野菜なんて高くてもったいない。

 多少質が悪くても食べられればいいのだ。


 高橋たかはし弘文ひろふみ49歳。職業無職の独り暮らし。

 二年前に某地方公務員を退職し、貯金と投資で底辺生活中。

 家に帰ったら鶏皮とキャベツを炒めて夕食にしよう。

 そんないつもと同じ無為な一日。その筈だった。


 家に帰る途中、ふと呼び止められたような気がした。

 声と言うよりは歌のような感じ。

 跨線橋の高架の下であたりを見回してみる。


 すぐにはわからなかった。

 でも確かに何か聞こえる気がする。

 言葉か歌かよく聞き取れないけれど、何かしら助けを求めているような感じだ。

 放っておいても日々の生活には支障は無いだろう。

 でもやっぱり気になる。


 何かが聞こえたような気がする方向をもう一度よく見てみる。

 高架橋の下、橋桁の隙間付近にふっと何か見えたような気がした。

 近づいてみる。ふっと灰色の何かが動いたように見えた。

 布地を被った人のようだ。浮浪者にしては小さい。子供だな。

 これは警察に電話した方がいいかな、そう思った時だ。


『公安機関、連絡、ない、で』

 そんな声が聞こえた気がした。


「家出かな。でもこのままこうしている訳にもいかないだろう」

『家出、違う。場所、迷った。迷子、世界、違う』

 言葉が変だ。日本語が得意では無いのだろうか。

 そうだとすると世界が違うというのは外国出身という事だろうか。


「外国から来たのかな。なら大使館か何処かで保護を頼めば」

『外国、違う。違う、世界』

 外国でなく違う世界? 意味がわからない。

 ただこっちが言っている意味はわかるようだ。

 だから聞いてみる。


「ならどうして欲しい?」

『助けて、欲しい。公安機関、駄目。世界、違う。食べてない。一日』

 さあどうしようか。私は考える。

 家に連れ帰っても文句をいう人間はいない。

 何せ独り暮らしだし、家は一戸建てなので広さも充分ある。

 でも何か厄介ごとに巻き込まれると面倒だ。

 ただ今の言葉の様子では食べるものも食べていない感じ。

 このまま見過ごしてもし飢え死にしたり事件をおこしたりとか考えると面倒だ。


「わかった。取り敢えず夕食くらいは食べさせてやる」

 鶏皮とキャベツだけでなく、真っ当な冷凍食品も一応ある。

 買い物に行けないとき用だが別に使っても構わない。

 やっぱり他の人に貧乏炒めを食べさせるのは申し訳無いしな。

 ちなみに貧乏炒めとは激安野菜や野草と鶏皮を炒めた料理のことだ。

 安くてご飯に合うので私の良く作るメニューである。


『ありがとう』

 そう言って子供は立ち上がる。

 もっと子供だと思ったが中学生くらいの女の子だ。

 顔立ちは鼻筋が通った白人風、多分育ったら美人になるだろう。

 今のままでも綺麗と言っていい。

 そしてくるまっていた布の下からもう一人顔を出した。

 こっちは男女不明だが小学低学年っぽい感じだ。

 二人だったとは思わなかった。でもまあ仕方無い。

 それに二人だと姉の方は結構色々気がかりだろう。


「ここから五分くらいだ。歩けるか?」

『大丈夫。身体、重い。でも歩く、出来る』

 身体が重いというのは疲れているという意味だろうか。

 まあ家は近い、ここから精々二百メートル程度。

 色々聞きたいことはある。でもその辺は落ち着いてから聞いてみればいい。

 何せ言葉が途切れ途切れで、理解するのに時間がかかる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る