第6話
「それじゃ一旦ご飯食べに部屋に戻るから」
「本当に越してきてたのかよ」
「こっちも越してきた先に偶然隣に遭難者がいると思わなかったから」
偶然って言うにはタイミング良すぎるだろ。誰だって意図的にやって来たと思うぞ。
鳩村が部屋から出て行ってしずかな空間が戻ってくる。スマホにはいつのまにか不在着信と通知が合わせて20件を超えていた。自衛隊が来るとか、交通機関はほぼ壊滅的な状況とか静かな部屋とは反対の騒々しい内容が殆どだった。
一つ一つに返信していると再び清から着信が入る。
「もしもし、亮二?今からそっち行っていい?」
「はぁっ⁉︎無理無理!なんで?」
こんな状況では当然会うことなんてできないぞ。玄関ボロボロだし、明らかに不審者スタイルだし。
「いや、今うち断水と停電のダブルパンチでやばい」
「近くの公共施設は?学校とか避難所になってないの?」
「うん、だから近くの中学校に行ったら跡形もなく消えてて近隣の人たち大混乱」
消し飛ぶとかそんなパターンもあるのかよ。というかこっちとあっちが混ざってこうなったって言ってたけど結局なんでそんなことが起きたのかあいつに訊いてないのに脅迫されてたとはいえ俺はあんな安請け合いしたのか。
話を戻そう。
「なるほどそれで近くの被害のなさそうな知り合いに泊めてもらおうと」
「そーゆーこと」
「だが断る。薄情者とでもなんとでも言うがいい」
いつもなら泊めるところだが、申し訳ないがお引き取り願おう。あいつと鉢合わせされてもこまるし。
「お、お願いだから。泊めて、一人怖い、無理」
「いや、気持ちは分かるけどこっちも今取り込み中だし」
「無理無理、いやだぁぁっ、今からそっち行くからっ!!それじゃっ!!」
そう言い放って電話は切れた。異常事態とはいえテンパりすぎだろ。
まずいことになった、あと五分もせずに清の奴こっちに来るぞ。どうする、なにから手をつければいいのだ。事情は説明するとして・・・、してどうにかなるのか、これ?もうどうとでもなれ。開き直ってありのままを説明しよう。そうしよう。
すると、いきなり玄関を蹴り飛ばす音がした。振り向くと鳩村がサンドウィッチ片手に仁王立ちをしていた。
「事件だから」
なぜに天海祐希風に事件の始まりを告げるこのKY魔女が。
「外出てすぐ来るから」
「なにがっ!?」
「もうまどろっこしい。そりゃっ!!」
すると部屋であぐらをかいていたはずなのに、体勢はそのままに一瞬で家の前に放り出されていた。
「ぃだあっ!」
ここまで雑に扱われるとさすがにいろいろと堪えるものがある。
何か来るって何が来るんだよ、近くに何か来てるようには思えないけど。とりあえず耳を澄ましてみることにした。狼の耳なんだ何かしら聞こえるだろう。神経を研ぎ澄ますと自転車が猛スピードで近づいてのが聞こえてきた。これは清だな。それ以外に何も聞こえないか集中する。
・・・何かがすり寄ってくる音がしかも人が走っているレベルの早さで。というか背後からもう来てる!!
そこには3mはあろうムカデが胴と沢山の足をうねうねとくねらせていた。頭上から首を狙うように一直線に顎を突き立ててくる。斜め上からの異形の姿に慄きながら体を仰け反らせながらすんでのところで回避する。ムカデはそのままの勢いでハサミがアスファルトに突き刺さった。ブリッジの体勢でムカデの蠢く腹を見ながら俺は笑顔で思った。死ぬ。
いや、無理。ここからどうしろと?あぐらかきながら海老反りしてるこんな間抜けな格好で起死回生なんてできるわけない。ステゴロで戦うなんて小学生の喧嘩したとき以来だっての。
そんなことを考えているうちにムカデは俺の上半身を足で捉え始めた。カサカサと関節を纏わりつかせて有刺鉄線で縛り上げるように体を突き刺してくる。腕で思いっきり振りほどこうとするが少し軋む程度で離れようとしない。次第に腕にもムカデがまとわりつき始め、体が拘束されてゆく。
ムカデは今度こそ動けない俺の首を狙って狙いを定め始める。必死に拘束を解こうと上半身をフルに使って動いてみるがもう首から上ぐらいしか動かすことができない。一か八か噛みついてみよう。噛み切れるか分からないがやるしかない。俺は思いっきり口を開けるとムカデの体にかぶりつく。見た目通りの硬さで牙が刺さらない。だめ押しで顎に力をこめる。すると少しずつ音を立てて亀裂が入ってくる。体を動かし悶えながら抵抗しているムカデだが少しずつ力が弱まってきている。
両腕が自由になると胴をつかんで真横に引っ張り上げる。ムカデは頭と尾を振るわせばたばたと暴れる。ムカデが動くほどに口の中に体液が口の中に流れ込んでくる。独特な臭いと酸味が口に広がる。どんどん突き刺さっていく、どんどんヒビが入っていく。そして、貫通した。
ムカデは大きくうねるがそこに追い打ちをかけるように引き伸ばす。貫通した穴がミチミチと引き裂けていく、体はそれからまもなく両断された。それから数分のたうち回りでかいムカデは息絶えた。
命の危機を脱すると安心して腰が抜けた。口当たりの悪い体液を唾と一緒に吐き出すとアドレナリンが切れたのか無数に傷つけられた体から痛みを一気に訴えかけられる。ずきずきとした痛みがにうずくまる。
この惨状を端から見ると本当に自分を人間として見る人など存在するのだろうか?誰が見ても化け物同士が争った後だと勘違い、いや、認識するだろう。
「なに・・・これ・・・」
こんな風に。最悪のタイミングで清が到着した。
「まて、清説明させてくれ」
恐怖と動揺で目を振るわせながらこちらの声に気がつくと、ひっ、と声を上げる。
「なんで?僕のなま・・・」
そう清が口を開こうとするとあいつの腕にものすごい勢いで何かが突き刺さった。
詰めが甘かった。ムカデの歯が清の腕をとらえていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます