第5話
「それで服を揃えてくれたのはいいんだけど、お前は結局これからどうするんだよ」
あらかた服を交換されて着れそうな服を物色していた。女性用の服が混じっていたりといくつか事故は起きたが、それでも海外から取り寄せたであろう日本のXLより大きめののパーカーやウインドブレーカーとズボンを引き当てれたのは不幸中の幸いだった。
「あー、元々はあんたを隔離と言うか有り体に言うと殺そうとしてたんだけど、事情が変わったしどうしよっかなーってかんじ?」
試着しようとしていた手が止まり尻尾が張り詰めて真っ直ぐに伸びる。
「やっぱそうだったのか」
殺人鬼を目の前に青ざめた顔をしている俺を見て鳩村は
「びびってんの」
そう言いながらクスクスとあざ笑っている。
「チャイムしてまともな返事してなかったらドアごとあんたの体ぶち抜くつもりだったし、喋れる知能が残っててよかったね」
まるで運が良かったとでも言いたいように小馬鹿にしてくる。
「それでまあ一つ提案なんだけどさ、あんた私の手伝いしてくれない?」
「寧ろそれは脅迫なのでは?お前俺を殺せるんだろ」
魔法。この世界からしたら未知の力。想像の範疇でも人の息の根を止めることなどたやすいことだろう。
「ん?あー語弊があったみたい。ごめんごめん言葉に慣れてなくて。ドアごとじゃなくてドアだけぶち抜いてあんたの心臓を一突きするつもりだったの」
「どんな言い間違いだよ!」
何が違うんだよ。どのみち頭の中で俺殺されてんじゃん。
「魔法だと人は殺せないから、殺すときは物理的に刺殺なり何なりと」
「えっ、魔法じゃ殺せないの?」
「できるよ。いとも簡単にバラバラ殺人だったり、塵も残さずに燃やし尽くすことも」
じゃあなんでそんな手順を踏んで殺すのかがわからない。
「でも命の代償は自分に還ってくる。それ故に殺人の魔法は禁忌とされてる」
「具体的には?」
「少しづつ身も心も不浄の霧に包まれて、最後には自分が自分で無くなる」
よくわからないがなんとなく目には目を歯には歯をのようなハンビラム法典的な法則があるらしい。
「とりあえず殺すつもりはない。そう受け取っていいな?」
「理解したなら話を続けるね。今私が必要なのは仕事を手伝う助手。あんたみたいなね」
「俺?」
「こっちの知識もあって尚且つ戦力になりそうな人材なんてそんなにいないしね」
確かにドアノブを引き千切る馬鹿力はあるけども戦力って言われると少し疑問なんだが。
「で、その仕事の内容は?」
「当面はこの事態の収拾。こっちに迷い込んだものの後始末ってところかな」
向こう側に明らかにいいように話が進んでいる。おかしい、おかしいぞ、なんで丸め込まれてるんだ?コイツには家を荒らされて、いくつか服を葬られてるんだぞ?受ける理由が分からない。それにコイツも脅迫でない以上俺が素直に承諾するはずがないことくらい分かっているのになんの策も労さずにそのまま話を持ちかけているのにも違和感を感じる。
「俺にメリットがあるようには見えないし、お前に恩もないんだが」
「そう言うと思った」
鳩村は小声で何かをつぶやいたあとにパチンっと指を鳴らした。その瞬間俺の両腕が床に落ち、体制を崩して後ろに倒れる。背筋が凍り付き声も出ないほどに動揺する。やっぱり俺殺されるのか?死ぬのか?
「安心しなさい。手足を外しただけだから。動かせるっしょ?」
落ち着いて恐る恐る手を動かしてみる。確かに動くけど身動きがとれない。
「・・・しないとは言ってなかったけど。結局脅迫かよ・・・」
「手伝ってくれるなら直してあげる」
やりたい放題やりやがってこの野郎。どうするこのままこいつに一泡吹かせてやりたい。なにかないか。すると机の下に転がっている手に何かが当たる。さっきメモを取っていた時に使っていた消しゴムが手元に転がっていた。消しゴムを握るとあいつに向かって手首のスナップだけで投げつけた。仰向けのままで見えなかったが死角から音と直感を頼りにあいつの不意を打つ。
「痛っ!?こいつよくも」
「オッシャ!ヒットー!」
跳弾した消しゴムが見事にあいつの額に命中し一矢を報いたことに思わず喜びの声を上げる。
「わかった。さすがにそのまま軟禁状態はあれね。糞尿垂れ流しっていうのはかわいそうだから下半身もバラしてトイレに置いといてあげる・・・」
「違う!そうじゃない!なんで逆に恥ずかしい方向に善処してんだよ!そこは元に戻す流れだろ!」
コイツ俺がYESと言うまで戻さないつもりだ。どんだけ頑固なんだよ。
「分かった。分かったから元に戻してくれ~」
諦めよう。もう勝てる気がしない。
「早くそう言いなさいよね。全く手間取らせてくれちゃって」
体が元に戻ると床に寝転んだまま五体満足に生んでくれた母親に感謝するのであった。
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