第3話

 twitterを開くとタイムラインが大荒れである。トレンド記事の中にリア友のアカウントがいくつか引用されている。

 一夜で起きた異変に振り回されていたのは自分だけではなかった。俺は恐る恐る毛布にくるまってベランダに出てみる。共有の駐車場と前の道路に亀裂が入っているがテレビに映っているような被害は出ていなくて少し安心した。けれどいろいろな方向から遠くで鳴り響くサイレンが非日常感をかき立てている。俺に、この街にいったい何が起きたのか原因さえわからない。

 その鳴り響くサイレンの中から着メロが流れてくる。大家さんが家の被害と安否の確認の電話をかけてきた。自分の容姿のことはふせてどちらも無事と答えて通話を切ると立て続けに電話が鳴る。今度はバイト先からで、店が半壊したため当分営業中止の知らせで再開の目処が立ったら連絡をすると言われてすぐ切られた。店長は忙しそうに飛び回っている。雇われ店長も大変だなと思いながら辞める口実ができて若干ホッとしている自分がいる。

 さてと、このままくすぶっているわけにもいかない。とりあえずスマホを覗いてみる。この騒動の中で外に出るのはますます無謀というものだ。下手したら渦中の中に引きずり込むどころか渦そのものになって誤解とパニックを生みまくることになる。画面を触りながらいろいろ見ているとやはり困惑している人が多い。これを省みると事態が収拾がつくまで出ることはできないのではないか?


・・・ん?そうか!出なければいいんだ。マイナス思考が働いていた矢先あることに気がつく。

「amazonだ‼︎」

ネット通販ならバレるリスクも少なく必要な物が手に入る!とりあえず配送センターを調べて営業しているか確認しなければ。すぐに近くのセンターを検索して電話をかけてみる。

「はい。こちら***宅配です。」

「もしもし、すいません。今日って営業されてますか?今日荷物が届く予定なんですけど」

本当は何も届かないがさらっと嘘をつく自分。神よ許したまえ。

「えーっとですね。前日に届いた荷物は一応お届けできる状態なんですけど。昨晩から今日の朝こちらに届く予定の荷物が来てなくてですねー・・・」

「あー、なるほど・・・」

「町内で崩落してる所もありますので運送ができる状態ではなくてですね。申し訳ございません。一応お名前だけ伺ってもよろしいでしょうか?」

「あ、いえ大丈夫です。ありがとうございました」


・・・まあ、そうだよなー。しょうがないとはいえどどうしたものか。だが考えろ、まだ手段は残っているはずだ。誰かに持ってきてもらうという発想はいいんだ。

考えた末、友人か誰かにカミングアウトしておつかいを頼む・・・。これだ!とりあえずこれでどうにか乗り切ろう。早速誰かに連絡とろう。そう思いアドレス帳を開こうとしたら瞬間。


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴った。

誰だ?大家さんからはさっき電話きたばっかりだし。こんな緊急事態に他所の家に来るやつなんて限られてくるはずなのだが。

インターホンのカメラを確認すると同い年くらいの女の子が立っていた。短い黒い髪の目元がくっきりした顔立ちで紙袋をぶら下げている。見たこともないし、明らかに宗教勧誘の感じでもない。よくわからないためスピーカーをオンにする。

「もしもし、どちら様でしょうか?」

「あ、はじめまして!昨日隣の部屋に引っ越してきた者です。挨拶に来ました」

引っ越し?5月の連休に?しかもこんな大変なことが起きてるのに?嘘臭さがそこはかとなく漂っている。

「あの、新しく入居してくるって話聞いてないんですけど」

「急に決まってしまいまして。連休明けから復学するのにこっちに戻って急ピッチで頼みましたので」

どこかに留学してたのか。

「あのこれつまらないものですが」

そう言って菓子折りの入っているであろう紙袋を持ち上げる。

「申し訳ないんですけど、できれば下のポストに入れておいてくれませんか」

人との接触は極力避けたい。とりあえず無難にやり過ごそう。

「これ生菓子なので直接渡したいのですが、それにお顔もできれば拝見させて頂きたいのですけど」

できればドアを開けたくない。しかし、咄嗟に断る理由も思いつかない。それにあんまり不審な態度をとって怪しまれるのも困りものだ。

「・・・わかりました。ドア開けるんで隙間から入れてください」

俺はインターホンを切ると再び毛布にくるまり、腕にタオルを巻く。この時点で怪しさマックスだがこれで受け取るしかない。


ドアチェーンをつけたまま扉を開く。けれどそこに彼女の姿はなかった。怪訝そうに外を覗き込むと突如として死角から工具のでかいたちばさみが伸びてきて鎖を捉える。すぐさま俺はドアノブを引くが時すでに遅しハサミがひっかかりドアが閉まらない。ドアの向こう側から細い手が扉をがっちり掴む。異常事態に恐怖心が湧き上がってくる。とにかく無理矢理閉めようと思いっきり腕に力を込める。その瞬間、ガキンっと鈍い音がした。ドアノブが外れて、そのままの勢いで尻もちをつく。あー、やっちまった。


時間が止まったように静けさが1Kに広がる。ゆっくりと隙間が広がって外の光が入ってくる。

「手間取らせないでよ」

そうぼやきながら彼女はズカズカと部屋に押し入ってきた。

 

 

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