第28話28
真夏の照りつける日差しの中、蒸した熱さの中を僕たちは立っていた。
「えー、これは大変残念なお知らせを皆さんにしないといけません」
休校があった翌日。僕たちは学校から呼び出しがあって、明日学校集会があるので学校のグラウンドに集合して欲しいとのことだった。
それを聞いた瞬間ぼくはわかった。自分が光の世界から遠ざかるのを。
「波田(はた)貴理子さんという2年B組の生徒がいましたが、一昨日自殺をしました」
みーん、みーん、みんみん。
蝉(せみ)の声がやけにうるさい。
真夏の日差しがぼくをじりじりと焦がす。いや、焦がしているのではない。
「波田(はた)さんはだれからも好かれる生徒でした。彼女の明るい笑顔を見るたびに…………」
焦がしているのではない。ぼくを焼いているのだ。
「波田(はた)さんや、その家族の痛み計り知れないと思います。皆さんもその人達に向けて哀悼の年を……………」
太陽がぼくを罰している。日差しが自分の首を焼き、体が贖罪(しょくざい)の涙を流す。それでも天は許しくれない。涙を流せ、苦しめと言わんばかりにぼくを熱湯の刑をかぶせる。熱さが自分を閉じ込め熱気の中、自分の悪の血をすべて出せようとする。
だが、そんな物はできない。だって、血を蒸発させたら死んでしまう。しかし、天はそれを全て出せようとする。干上がらせようとする。ぼくは体内が沸騰(ふっとう)する感覚を覚えながら苦しみの叫び声を上げる。そして…………。
「笹原、笹原!」
半透明の水面が揺れる。何かがぼくを揺さぶってるようだ。やがてぼくは水面へ浮上した。
そうしたら、真部がぼくを揺さぶっていた。
「笹原、どうしたんだ?体調はいいのか?」
「ああ。ちょっと、内容にショックを受けてさ、頭がふらふらしたんだ」
「ああ、そうか」
真部は頷いていた。それで、横を向きながらこう言った。
「うん、そうだな。確かにこれにショックを受けるのが、言葉はアバウトだが、よい人間だよな。ほかの人たちは校長の話が終わるとさっさと帰っていったよ。いくら他人の上に起きた出来事とはいえ、そういうのはよくないだろう。と俺は思うんだがな、どう思う、笹原?」
「うん、そうだね。そういうのはよくない。でも、ぼくの場合はクラスメートだから、よりショックが大きかったよ」
それを言うと真部も納得したように頷いた。
「ああ、そうだな。笹原のクラスメートだったな、彼女は」
そう言って真部はしきりに頷いていた。ぼくは自転車を取りに向かうべく、駐輪場に向かって歩き出した。そうしたら、真部がぼくに声をかけてきた。
「おい、どこに行くんだ。笹原」
「自転車を取りに行くんだよ。家に帰らないと」
そうだ、家に帰ろう。そして、そして。何をするんだ?よくわからない感情の紙片がマイクロチップのような一つの回路に無数の回路が結びあわせ、一つ考えようとしたら、ほかの思念もどっとこれについてきて、ぼくをこんがらかせ、縛り付ける。
「家に帰らなくては、それで、それで…………」
そう言ってぼくは歩いて行った。それで、それでどうするんだ?
「おい、おい!」
突然ぼくの体が反転した。最初は何が起こったのかわからなかったが、すぐに真部がぼくを振り返らせたのだ、ということがわかった。
「しっかりしろ、笹原。おまえ、本当に大丈夫か?」
真部の目がぼくをのぞき込んでいた。その黒々とした瞳はしっかりとした土に見えた。
「あ、ああ」
あれ、自分は今なんと考えていた。
どうにか、ぼくは正気を取り戻すことができた。今、さっきぼくは何をしようと思ったのか?
「笹原。珈琲(こーひー)館に行こう。今日のおまえはちょっと変だ。少し、カフェに入って休もう。これでいいか?」
「うん、わかった。確かにぼくは疲れていた。ちょっと、どうにかなってしまいそうだったよ。少し、休もう。それでいいかな、真部」
それに真部も。
「ああ」
頷いてくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます