第6話6

 第2章 新たな高校生活





 目を開く。今の時間は午前7時。ちょうどよい時間だ。

 今日4月3日は学校の始業式がある日。それで僕は自然と目が覚めてしまったのだ。今日は始業式、これからどんな高校生活が始まるのだろう。

 僕は上体を起こした。そのときに朝霧に包む木のぬれた葉がひとしずく落ちていったように、僕はある考えがうかんだ。それは頭に鉛が入るような、全身の疲れと不安だった。そう僕は不安でしょうがなかった。ここに自ら来たものの、もう高校生活に嫌気が差し始めてきた、ただ、自ら来たことだから、やめるようなまねはしないけど、それでも、もうだめになりそうだった。

 それに寺島さん達のことがある。昨日の疲れが今日いっぺんにやってきたのだ。友だちとつきあうとあとでものすごく疲れるんだな、ということを身をもって実感した。寺島さんが言っていたけど、友だちとつきあうのはいいことばかりじゃない、という言葉が今更(いまさら)によくわかった。

 しかし、学校には行かなくてはならない、なので僕は支度をしに居間へ降りた。




 僕は家で支度している最中にも全身の倦怠感(けんたいかん)が抜け切れていなかったが、何とか、やる気を絞り出して支度をし家に出た。

ーかた、がしゃ。

 そして、僕は学校に着き自転車を止めた。それでまず、体育館に行かないとな。

 僕はだれと一緒のクラスになりたいだろう、真部か寺島さんか。しかし、寺島さんはいるだけで僕はすごく緊張してしまう。うれしいのだが、かなり緊張してしまうのだ。もし、同じクラスだったらそれはそれできついな、と思ってしまう。

 じゃあ、一緒になりたいのは真部か。それが妥当だな。あ、でもフレイジャーさんだけはいやだな。まあ、もっと話していないと何とも言えないけど、せめてもう少し話してから、つきあっていきたい。

 そんなことを思いながら僕は体育館に向かった。




 始業式が終わって、2階の廊下に移動する。そこにクラス分けが張ってあるはずだ。

 そのクラス分けのA組から順次見ていたら、その途中で寺島さん達に遭遇した。

「おはよう、笹原君」

「ああ、おはよう寺島さん、真部、フレイジャーさん」

 寺島さんと真部とフレイジャーさんに挨拶(あいさつ)をする。

「笹原君はどこのクラスだった?」

「いえ、まだ見ていません」

「そうか、そうだったんだ〜。ちなみに私はE組で光がC組なの。それでリンちゃんはB組だったんだよ」

「へえ、そうだったんですか」

 とりあえず相づちをうっておく。

「そうそう、また、私、友だちと離れてしまったのよ。ひどいよね〜、私また、ひとりぼっちだよ」

 そう言って、寺島さんは元気よく肩を落とした。でも、なんだかんだ言って、寺島さんは元気そうに見える。

「でも、寺島さんなら、クラスの人たちとすぐに仲良くできる気がするんだけど。実際に一年の時にはみんなとも仲良くしてたし」

「そうかしら?」

「そうだよ」

 寺島さんが考え込むような表情をしたので、僕は逆にびっくりしてしまった。こと、人間関係のつきあい方で寺島さんぐらいに人との関係を作れる人はそう、いないので何をそんなに悩んでいるのだろうと思ったのだ。

「だって、実際にクラスのみんなとも仲良くできただろ?寺島さんならどんなクラスの人たちだって仲良くできるよ」

 僕が真剣にそう言うと寺島さんも頷いてくれた。

「わかった、笹原君がそう言うのなら、そうかもね」

 それで寺島さんは暗い表情から一転して、明るくこう言った。

「ありがとう、笹原君のおかげで元気になったわ。では、笹原君はクラス分け見てね。あと、願わくば、私と同じクラスになりますように」

「はは、また冗談言って」

「冗談じゃないよ。本気だよ。やっぱり一人だと寂しいじゃない。笹原君がいてくれると安心できるよ」

「ははは」

 とりあえず笑ってごまかしたが、本当はそんな風に思ってくれてうれしかった。

「まあ、笹原とにかく見たらどうだ?」

 真部がこう言った。

「ああ、わかった見るよ。それじゃあね、寺島さん」

 ちらりとフレイジャーさんの方を見た。特に理由はないけど、フレイジャーさんもこっちを見て、目をそらした。いったい何なんだろう?

 まあ、それはともかく僕は掲示板を見た。

 A組…………………ないな。

 B組…………………あった。

 僕はB組に自分の名前は発見した。でも、確かB組って…………。

 僕は寺島さん達を、特にフレイジャーさんを発見しようとしてその姿を探した。そうしたらほどなく見つけることができた。

「あ、笹原君どうだった?クラス分け?」

「B組だったよ。ところでフレイジャーさん」

 フレイジャーさんがこちらを見る。フレイジャーさんの目には曇りがない。その様子で僕はこのことをフレイジャーさんが知っていると直感した。

「フレイジャーさんと同じB組だったよ。これに気づいたね?フレイジャーさん」

 それにフレイジャーさんも素直に頷く。

「ええ」

「じゃあ、これからはクラスメートだ、よろしく」

 手を突き出す。それにフレイジャーさんも応える。

「こちらこそ」

 しかし、握手が終わったあとこんなことを言い出した。

「前にも話しましたが、クラスメートになったら互いのことがよくわかるから、自然と互いの関係が決まると思います。もし、私たちが友だちになれなかったとしても、私は美春と一緒のグループにいます。あなたもそれに参加してもいいですが、そのときはお互い節度ある関係を保ちましょう」

 つまり、友だちになれなかったらあんまり関わり合いを持つなと言うことか。

「わかったよ。じゃあ、そうなったら、そうしよう。でも、その前にお互いのことがよくわからないうちに嫌うと言うことはあまりしたくないんで、2,3度は話す機会を折を見てもうけよう。それでいいね?」

「ええ、いいわ」

 フレイジャーさんもそれに素直に賛成してくれた。僕たちはそのまま動かずにいた。動いてもいいけど、ただ何となく動かなかった。何か動いたら負けだと、と言う空気に押されて、僕たちはにらみ合いをしていた。それで、僕たちの気配に押されてか、寺島さんはこう割り込んできた。

「ま、まあまあ、いいじゃない。二人してさ一緒のクラスになって、クラスメートだからこそ、お互いの良さがわかるかも知れないし、それがきっかけで仲良くなるかも知れないからさ」

「…………………………」

 寺島さんの言葉に僕たちは沈黙で返した。僕とフレイジャーさんは仲良くなれるとは全く思っていなかったのだ。

「まあ、ともかく、それぞれの教室に行こう。そして、これからのことは放課後に話そう。いいね?」

 真部の言葉にみんなが頷いて、それで解散となった。



















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