第4話4
教室に戻るとクラスメートのおしゃべりの渦がまだあった。渦は一つの波が発生して、それが同時多発的に発生し、ぶつかり飲み込まれ、波以外の人を混乱させる渦を作っているのだ。それは先生が授業をしない限り止められないだろう。
僕はこの渦を無視して席に座ろうとした。席の近くに立ったとき、ある声が聞こえた。
「ええー!それはないよう!香奈ちゃん!」
その明るい声に僕は足を止めざるを得なかった。
寺島さん。
僕の好きな人。いつもその明るい笑顔に心が洗われる。寺島さんと話したときと言えば、あの夏の出来事ぐらいなもので、それ以外には何も話したことはなかった。
でも、僕はそれで十分だった。彼女の笑顔をみるだけで、…………いや、違う。本当は彼女と話したい気持ちがすごく高まってるけど、彼女に話しかけると考えただけで気恥ずかしくてしょうがないのだ。僕の心はそうやってすごくぶれていたのだ。
寺島さんはまだ笑っている。僕はそれをみながらひっそりと席に着いた。
夜。僕は家に帰って、宿題をして、それが一段落したところで僕の唯一の趣味、本を読むことにした。
読む本は昔はライトノベルだったけど、今は重松清だ。彼が書く登場人物はかっこよくないけど、素直に共感できる設定と、人としての倫理を問うストーリーに当時は圧倒されてしまったのだ。ほかにも夏目漱石の『心』とか、ドストエフスキーの『罪と罰』を読んだがいまいちおもしろくなかった。
今は重松など読まないが、名だたる古典文学をおもしろいと感じたことは今もない。
ともかく当時は本当に重松が好きだったのだ。『ナイフ』を読んでいつもその話に圧倒されたのだ。それで僕はいじめをもし受けてしまったらどうしよう。どういう選択をするのだろう。どうすればいいのだろうと、寝る前にそういうことが自然に浮かぶほど重松の世界に入り込んでいったのだ。
重松清 ナイフ(1997年11月 新潮社 / 2000年7月 新潮文庫)
夏目漱石こゝろ(1914年4月 - 8月、『朝日新聞』/1914年9月、岩波書店)
フョードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー1866年『罪と罰』(Преступление и наказание)
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