第3話3

 学校の昼休み。僕は近くのコンビニでパンを買うために校舎を出た。外に出ると春らしい陽気が周囲に軽い闊達さを運んでくる。

 しかし、僕にはそれが重い。中学生までだったら、春が来ると何かが変われそうな気がしたが、もう高校生になると何も変われる気がしなくなる。それが重い原因なのだ。

 ともかく、僕はコンビニに行ってパンを買った。問題はこれをどこで食べるかだ。教室にはなるべく入りたくない。あそこで食べると、本当に自分が一人だという気がするから。しかし、考えてみると不思議なものだ。どこかのファーストフード、たとえばミスタードーナツで一人で食べていると別の孤独とは思わないが、教室で一人で食べるとかなり堪える。

 まあ、考えてみれば当然か、ファーストフードだと元から他人同士だし、一人の客も多いから別に気にする必要はないけど、教室でみんなが友達を作る中一人だと言うことは、おまえは友達を作れなかった、という烙印を押される訳なのだから。

 閑話休題。とにかく、今日は春の陽気があることだし、中庭で昼食を食べよう。




 中庭に着くと先客がいた。僕ぐらい身長がある美少女。確かフレイジャーといういう名前の人。その人がご飯を食べていた。丁寧に箸を使って礼儀正しく食べていた。フレイジャーはどう見てもアングロサクソン系の人で、その人が箸を使って礼儀正しく食べている様子には、何かギャップがあった。

 それはともかく、中庭のベンチはここしかないから、確認をとってここで食べることにした。

「君」

 フレイジャーさんが箸を止め、こちらを見上げる。

「あのさ、僕は中庭で食べたいんだけど、よかったら君の隣に座っていいかな?」

「どうぞ」

 それでフレイジャーさんは横にずれてくれた。

「どうも、ありがとう」

「いいえ」

 それで僕はベンチに座った。僕の心臓はなりっぱなしだった。人にこんな風にお願いするのが、僕のこれまでの人生になかったから、ほんとどきどきした。

 それで心臓は高鳴っていたけど、僕は平静を装うってパンを食べた。パンを食べながら、ちらりとフレイジャーさんをみると本当に美人だった。透き通るような色の白さ整った鼻梁と日の光を受けて輝き出す金髪が彼女の美しさを際立てていた。当時も今も僕は美人に弱かった。美人と対峙するときに現れる、あの何ともいえない気恥ずかしさがいつも表れるのだ。しかも、この当時は何というか今よりも、青いというか、純情みたいなものだったので美人に遭遇するとほんと心臓が高鳴って仕方なかった。

 たとえば寺島さんだとかはちょっとそばにいるだけですごく気恥ずかしくてしょうがないのだ。それくらい僕は美人に弱かった。

 そうこうしてる間にフレイジャーさんはベンチから立って、教室に戻っていった。

 僕はフレイジャーさんにどぎまぎして全然食べていなかったので、慌ててパンを食べた。 

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