第10話 五十嵐愛奈①


 五十嵐愛奈。26歳。


 彼女は一体何故、26歳にして高校に通っているのだろうか。


 それは愛奈が18の時であった。今と見た目は何ら変わりはなく、愛奈もの女子高生だった。


 しかし高校3年の夏、下校中に謎の痛みに襲われ意識を失う。


 愛奈が気がつくと目の前には病院の白い天井があった。


 隣を見ると愛奈の母が座っていた。


 その隣には当時まだ9歳のヒカリがいた。


 自分に何が起きているのか全くその状況で理解できなく、ただ全身の謎の痛みに耐えることしかできなかった。


「お母さん私何で倒れたの……。」


「まだわからないの……今は痛いかもしれないけど一緒に頑張ろうね。」


 愛奈の母は溢れそうな涙に堪え、堪えた。


「五十嵐愛奈さんのお母様でいらっしゃいますか?診断結果が出ましたので担当医のところまでいらしてください。」


「は、はい……。」


 看護士の様子から診断結果が良いものではないことは察しつつも、愛奈の方を一度見て担当医の元へ行った。



「あ、あのうちの娘はすぐに回復するのでしょうか?」


「率直に言うと、現在の痛みはおそらくあと2日ほどで止むでしょう。しかしこの痛みは言うなれば初期反動のようなものなんです。」


「ということは、これから何かもっと痛い目に娘はあってしまうんですか?」


「いえ、痛みが伴うものではありません。こちらもまだ前例がなくはっきりとしたことは言えないのですが、検査を行った時に不可解なものを見つけまして、詳しく調べていてこんなにかかってしまいました。」


「その不可解なものって何なんですか?」


「順を追って説明いたします。娘さんの現在の年齢は18歳でまちがいないですよね?」


「はい、つい2ヶ月前に18歳になったばかりです。」


「そうですか。では確認も済んだところで本題に入ります。


 人間は人それぞれですが、18歳頃に成熟を迎えます。つまりこれ以上成長はしないということです。そしてそれはすなわち細胞分裂がこれ以上は行われないことを指します。この限界を迎えると細胞周期抑制タンパク質の発現が上昇します。これにより細胞は細胞老化を迎え、『老化』していくんです。


 ですが娘さんの細胞を検査させていただいたところ、すでに成熟されているようなのですが、全く老化につながる細胞周期抑制タンパク質が発現しておらず、さらには細胞老化のあとすらありませんでした。」


「それはつまりどういうことなんですか?」


「つまり、この細胞がこのまま止まるとしたら、娘さんは18歳のまま成長できないかもしれないんです。


 現実離れした言い方でいうと『不老』という状況になりうるということです。」




「お母さんまだかなぁ。」

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