第3話 恋は人を変えるらしい

「ダイダイよ、5月には何があるかわかっているよな」


 快星は登校1日目の帰り道に、そう大那に話を切り出した。


「あぁ、勉強合宿のことか?あれって何で俺らもいかないといけないんだ?行く意味あるか?苦痛でしかないよな……。」


 大那が言っている勉強合宿とは水蓮高校伝統の5月中旬に行われる2泊3日の合宿のことであり、毎年『恋無山れんぶざん』に3年全員で行き1日9時間は勉強を強制的にやるという高校生泣かせの地獄の合宿である。


「まあそうだ。あの合宿は一見、地獄の合宿だ。だがしかし!あの合宿では全員私服なのだぁぁぁあああ!!」


「なんだってぇ?!っていや、それが何だっていうんだよ。」


「お前あの五十嵐さんの私服見たくないのか?!」


「あのいやらしいたくさんの私服だと?!?!みたいに決まっているじゃないか!!」


「ッチゲーヨ!どうやったらそう聞こえるんだよ!!」


「っ?!そうかあの五十嵐さんの私服が見れるのか……!」


 この時大那の脳にはこれっぽちも愛奈の事など考えていなかった。そう、五十嵐と言っても大那の考えていたのは五十嵐ヒカリのことであった。


「あの金髪に似合う服装か……清楚系なのか……はたまたストリート系なのか……」


 大那の頭の中で妄想はどんどん膨らんでいったが大那でもヒカリに対して決して卑猥な妄想はしていなかった。


 なぜなら大那はヒカリに純粋に恋していたのである。人は本気で恋をすると下心など消え純粋な心になるものである。気になった人に対して少しでも卑猥な妄想をしたのならばそれは恋ではなく、あれ?ちょっと好きかも4割、下心6割の野生の心である。


 そんな卑猥な妄想をしなかった大那はただ純粋にヒカリに恋していた。


「あ〜ダイダイ、君はあのツンツン姫が好みなのか、ははぁ〜ん。」


「その反応、お前は愛奈さん派なのか。」


「だって、全く訳がわからないけど俺の初恋の人そのものなんだぞ?!憧れの人が目の前に3年越しに現れて、しかも同じクラスだなんてドッキドッキの恋愛ドラマみたいな展開が待ってないわけがないだろ!そんなこと考えて好きにならんやつがおかしい!!」


 そう力強く鼻息を出しながら愛菜に対する好意を宣言したと同時に快晴は本題へと話を切り出した。


「そこでダイダイ、君に頼みがあるんだが、今度の日曜日は暇かね?」


「あぁ、その日なら練習試合があるけど午前中で終わるから午後は暇だよ。んで?、頼みとは?」


「おぉ!さすがダイダイ!頼みなんだが…………俺を変えてくれ!」


 こんな頼みをしたのには訳があった。快星は高校3年にして服に意識を向けたことがなく、ファッションという分野において小学生レベルで止まっていた。というのも高校に入ってからも街に出かけに行くような友達は大那くらいしかおらず、そもそも外出を嫌う快星にとって街に行くのはおっさんだらけのサウナで汗を流すくらい嫌なことであったため、成長はずっと止まっていた。


 一方、大那は運動部特有の部活終わりに「街行く?」みたいなノリのなか高校生活を送っていた。休日にももちろん外出の約束は90%入った。そのため街に出るならと自分の服装を磨きに磨いた結果、大那はオシャレであった。


「頼む!俺の知る限りお前が一番友達のなかでオシャレなんだよ!」


 快星は藁にもすがる思いで大那に頼んだ。


 ここまで頼むのにも訳があった。勉強合宿には普段見ることができない人の私服を見ることができる見ることができるという大きな楽しみがある。が、逆に考えるとそれは”見られる”ということにもなる。これを自意識過剰と思う者もいるかもしれないがそんなのは表向きでみんな必死に服選びをするのが現実なのである。人のを楽しみにする以上自分の身なりをよくせねば……と考えるのが普通であり、快星もそのうちの一人であった。


「なんだよって!……普通なオシャレでよければ一緒に服買いに行ってやらんでもない。」


 大那は少し嫌な顔をしたが密かにやってみたいと思っていた自分以外の全身コーデができると思い内心喜んでいた。



 こうして快星は変化の一歩を踏み出したのであった。





「ところで今日のコーデはどうだ?」


「クソダサい。」







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