[16]
真壁はタバコを1本くわえ、マッチを擦って火を付けた。
「紀子が、その話を君にした時の様子を正確に話してくれるか?まず、直接に会ったのか?それとも電話?」
「紀子は学校を休んでて、夜遅くに会いたいと電話をかけてきて・・・駅前で紀子と会いました」
「紀子の様子は、どんなふうだった?」
「興奮してた・・・笑ったり、急に黙り込んだり・・・」
「紀子は、殺人の話だけしに来たのか?それとも他の雑談もしたのか」
「お爺さんを殺したという話だけです」
「紀子は言ったのはそれだけか?」
「ええ・・・」
「それで・・・君はそれを聞いて、紀子に何か言ったのか」
「覚えてません。初め、冗談だと思ったから真面目に聞いてなかったし・・・」
「紀子の話が本当だと思ったのは、いつだ」
「・・・紀子の顔を見ているうちに、冗談で言ってるんじゃないと感じて、怖くなったんです」
「君は、その老人に会ったことはあるのか?」
芽衣は首を横に振った。
「ところで、紀子はどうやってお爺さんを殺したとか、そういう話はしたのか?」
「タオルで首を絞めたって言いました。部屋を出る時は、鍵をかけて持ってったとも」
「紀子は、この話を誰にも言うなという類のことを言ったのか?」
「ええ・・・多分、そう言いました」
「君は誰にも言うなと言われて、二か月も黙ってたわけじゃないだろ?紀子に、何か借りでもあったのか?」
「紀子は友だちだったし・・・」
「友だちだから二か月黙ってたのか?では、四月になって、警察に話そうと決めたのはなぜだ?」
「・・・そんな秘密を背負って新学年になるのは嫌だったから」
芽衣にはまだ、自分の意思通りの言葉を選ぶ余裕が残っている。真壁はタバコの灰を排水溝に落とした。少し間を置いてから、真壁は口を開いた。
「ところで、紀子とはいつ知り合った?中学から?」
芽衣はうなづいた。
「1、2年生はクラスが一緒」
「君と紀子はだいぶ感じが違うだろう?趣味でも一緒だったの」
「別に・・・」
「君は友だちが多そうだが、紀子はむしろ逆のように見えた。引っ込み思案な方か?」
「ええ」
「君と友だちになったきっかけは?」
芽衣はしばらくどこかに目線を逃がして、言葉を探していた。それからまた「別に」と言った。真壁はタバコを地面に落とし、踏みつぶした。
「・・・まず、君が清宮に話したようなことは、本人の自首とか、事件を裏付ける確実な物的証拠が出ない限り、警察では扱うことは出来ない。しかし、君が所轄に訴える権利はある。捜査をするかどうか決めるのは所轄だ」
「要するに刑事さんたちは・・・紀子の話が作り話だと思ってるんですか」
「今言ったとおり、事件を裏付ける証拠が出ないうちは、何とも言えない」
芽衣は黙って聞いていた。その眼には軽蔑の色があった。真壁は構わず続けた。
「紀子の話がデタラメでないと感じるなら、君はまず三鷹南署へ行くべきだ。誰に話していいのか分からないということであれば、署の誰かを紹介する」
「三鷹南署へは行けません。学校の教頭の弟が・・・あそこの署長さんだから」
「だから、清宮を掴まえたのか」
「そうです。いつも見ている人だったし・・・それに、出来れば本庁の人の方が立場が強いと思ったし、紀子のお父さんは弁護士だから、警察沙汰になったらきっともめるし・・・誰かが警察へタレ込んだのか調べられたら、アタシも親も困るし・・・」
これは女子高生の発想ではない。真壁はそう思った。何らかの形で、こういうことを少女の頭に吹き込んでいる大人がいるのだろう。
「しかし、捜査になったら、君は幼児じゃないんだから、きちんと調書を取られるぞ」
「そんなの・・・困ります」
芽衣は下を向いた。ほんの少し身体がそわそわし始めている。
「供述は拒否することも出来るから、それはその時だ」
「紀子には会わないんですか・・・」
「会う立場がないからな。最後に1つ聞きたい。実は清宮が、去年の暮れに吉祥寺の本町1丁目で君に会ったと言ってる。心当たりはあるか?」
「ええ」
芽衣は尖らせた口でぼそりと言った。
「ぶつかったの?」
芽衣がうなづいた。
「キャバクラの前で?」
「ぶつかった時、すぐに毎朝、家の前で見ている人だと分かりました」
「笑ったのか?」
「笑った?」
「清宮は初めて君と駅で話したとき、君がニヤニヤしていたと言ってる」
「ニヤニヤなんか、してません」
「まあいい。よし、今夜はここまでだ。話を聞かせてくれてありがとう。さあ、君はまっすぐ家に帰れ」
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