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 刑事課長が報告を締めくくろうとした。

「では、うちからの報告は以上・・・」

「まだ、聞くことがある」馬場が鋭く遮った。「さっきの続きだが、ガイシャが事件当夜、現場にいた理由に関して、近所の聞き込みの成果は」

「目撃者は、先にも言った通り・・・」

「目撃者じゃない。被害者が、襲われる前に訪ねた家なり店なりを探したのか」

「今のところ見つかってない」

「地番のどこからどこまで探した」

「四丁目全部と・・・」

「誰か地図よこせ」

 馬場は所轄の誰かから住宅地図をもらい、その場でこれまでの地どりの区割りを聞き出した。素早く自分で線をひき直したと思うと、その地図を黒板に磁石で貼りつけた。1時間ほど前まで酔っ払っていたのが嘘のようだ。

「全員、2つの点に注意してほしい。まず、犯行現場はここだ。人通りもない住宅街の夜道を、被害者は南から北へ向かって走っていた。現場から約70メートル北は野猿街道。途中で西に折れても国道一六号までは120メートル。助けを求めるのに、野猿街道の方が近いことを知っていた可能性がある。ならば、土地勘があるということだ。

 次に、被害者が深夜に現場にいた理由。午後8時にJR八王子駅で目撃され、午後11時に血を流して四丁目十八番の路上に倒れたのだから、その間は計3時間。被害者は事件発生前、現場に近い、この街の中のどこかに必ずいたはずだ。被害者に特定の目的で訪ねる人間がいたのなら、土地勘があったことも理解できる。今から班分けをするから、各班はこの交差点を中心にして、被害者が訪ねた場所を必ず探し出すこと」

 杉村が傍から付け加える。

「聞き込みの結果、もし被害者の訪問先が出てこなかった場合は、聞き込み先の中に嘘をついている者がいることも考えられる。くれぐれも慎重にやって下さい。同じく、被害者のカン捜査も洩れている点が多々あると思われるので、一からやり直します」

 所轄の刑事から「どこがどう洩れてるんですか」と不満の声が出た。

「調べてみなければ分かりません。しかし、ウチの馬場が言った通り、被害者が事件前にいた場所を探すのは当然です」

「そんなことは分かってる。うちは洩れなく探した。四丁目の全世帯を当たった」

「被害者が立ち寄った先が出てくるまで、探します」杉村ははねつけた。

 5分ほどで班分けをやってしまった馬場が、名前と分担を読み上げ始めた。開渡を除く十係7名のうち、真壁と桜井を除く5名は各々所轄の人間と組になってカン。残りは地どり。地どりは犯行現場を中心に、放射状に六区に割ってあった。

 真壁は馬場の采配を聞き、内心呆れながらも同時に、ある種の非情さを感じた。馬場は清宮を犯行現場の四つ角の東側に立っている例の6階建てのマンションを含む地区を割り振っていた。

 要するに、馬場の鋭敏なアンテナは全方位をカバーしているということだった。真壁が察知したようなことは全てつかんでいるのだろう。清宮があのマンションに注目した理由が何であれ、そこへ本人を割り当てた馬場が狙っている収穫は2つ。1つは迅速なネタの収穫、もう1つはそのネタが不発だった場合は清宮の失点に繋がるという点だった。

 真壁は再び清宮の顔を窺った。本人はこれといった表情は浮かべていなかった。他に何か考えることがあって、馬場の作為を感じるヒマがないのかも知れない。

「質問がなければ、これで会議は終わります。本日の上がりは午後7時。今日1日、鋭意捜査に全力を尽くして下さい」

 刑事課長のその言葉で、二十余名の捜査員は午前十時前に席を立った。

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