第6章 スマイル大ピンチ

「くそ、隕石め、どこに行きやがった」

 南北博士と助手は、スマイルを見失ったのだ。

「隕石探知機を使いましょう」

 助手がカバンから探知機を取り出す。

「まて、それを使えば、やつに気づかれる」

 博士が首を横にふる。

「間に合いません」

「あの子供たちが、探し出してくれる」

「なるほど」

 ふたりは、目を合わせうなずいた。

「スマイル!」

 陽太と綾子は自転車で急な坂道を、ダウンヒル競技のようにブンブン飛ばした。

「スマイル、どこ!」

 綾子が声を上げる。

「次の分かれ道を、右に行って下さい」

 陽太のイヤホンにスマイルの声が響いた。

「綾子ちゃん、右だ」

 陽太が、後ろをふりかえり、右の道を小さくゆびさした。

 綾子が、うんとうなずく。

「まっすぐ走って!」

 スマイルの指示が続く。

「うん」

 ハンズフリーで返事する。

「八本目のドングリの木で止まって下さい」

「一本、二本、三本……」

「もうちょい」

 キキイイィ

 二人は、ドングリの木の前で止まった。

「スマイル、どこ?」

 陽太は、はいつくばって、生い茂るヤハズ草やシダの葉っぱをかきわける。

「あったわ」

 綾子がドングリの木のうしろから、泥や枯れ葉にまみれた、スマイルを見つけた。

「スマイル!」

 大喜びして陽太が手をのばす。

「あっ」

 陽太はなにかにつまずき、茂みの中に転んだ。

「このドロボウこぞうが!」

 木の陰から南北博士がひょいと出てきて、陽太の足を引っかけた。

「ドロボウ?」

 陽太は、何を言われているのかわからず、ぼうぜんとなった。

「ドロボウこぞうめ!」

 博士は捨て台詞をはき、走り去った。

 ありえない言葉に、陽太は返す言葉がない。

「陽太くん、ひざから血が出てるわ」

 綾子がハンカチをわたそうとすると、

「これくらい、だいじょうぶ」

 陽太は、ペッとつばを傷口にはきかけ、自転車のハンドルを握った。

「どろぼうは博士のほうじゃないか」

「ほんとね。どうかしてるわ」

 綾子もキッと目をして自転車にまたがる。

「あいつら研究所に行ったんだ」

「急ぎましょう」

 二人はペダルを力強くふんで、陽太の町にある、南北研究所に自転車を走らせた。


 そのころ南北研究所では、

「この隕石を調べて、同じ磁石を大量に作れば世界科学賞はわたしのものだ!」

 博士は笑みを浮かべ、目を輝かせた。

「隕石を実験台で半分にカットしたまえ」

 博士はスマイルを助手に手渡した。

「わかりました」

 助手は強化ガラスで囲まれた、実験台にスマイルを固定した。

「ここだ」

 研究所に着いた陽太と綾子は、大きな鉄のゲートの前で、自転車を降りた。

「ごめんください」

 インターホンを鳴らすが、返事はない。

「博士、あのガキどもが来ています」

「気にするな。早く隕石を切断したまえ」

「は、はい」

 助手は台に固定されたスマイルに、高速回転する、オール・ダイアモンドの鋭い刃先を押しつけた。

 バリバリバリ

 カッターはあっけなく砕けた。

「博士、歯が立ちません」

「そんなバカな! スーパーダイアモンドカッターを使いなさい」

 博士はいらいらしながら、スマイルをにらんだ。

 すぐに助手がカッターを交換する。

「こんどは、わたしがする」

 博士は助手を押しのけ、スイッチを押した。

 ドドドド

 火山でも噴火したような、大きな爆発音と地響きがおきた。

「た、たすけて!」

 鉄のロッカーや鉄の柱が、つぎからつぎに、博士と助手におそいかかる。

「研究所にゲートが飛んでいくよ」

「ゲートだけじゃないわ。ガードレールも煙突も車も、金属のものはなにもかもよ」

 研究所は、あっというまに、金属の山で埋め尽くされた。

「スマイルだ!」

「きっとそうよ!」

 二人はおたがいの顔を見合わせ、うなずくと、スマイルを救出するため、金属にうまった研究所の建物に入った。

「スマイル! どこにいるの?」

 建物の中は、がれきの山だった。

 陽太と綾子は、壊れかけた通路を前へ前へと進む。

 ビーン

 スマホのバイブが鳴った。

「陽太くん、綾子ちゃん、だいじょうぶ?」

 スマイルだった。

「ぼくたちは、だいじょうぶだよ。君はどこにいるの?」

「研究室に閉じ込められているんだ」

「研究室?」

「スマホのマップに位置を表示するから、画面の誘導にしたがって」

「わかったよ」

 すぐに建物の見取り図がスマホの画面に表示され、陽太と綾子の位置と、スマイルの位置が、赤い線で結ばれた。

「すごい!」

「この廊下をまっすぐ進めばいいのね」

 二人の小学生は、鉄骨でうまった通路を、用心深く走り抜けた。

「あそこだ!」

 研究室にスマイルの姿が見えた。

「スマイル!」

「どうやったら外せるのかしら」

 スマイルは炭素繊維のアームで、実験台にがんじょうに固定されている。

「緑の丸いボタンを押して!」

 スマホからスマイルの声。

「まかせて」

 陽太が、緑のボタンに指を伸ばす。

「ドロボウ! そうはさせるものか」

 南北博士が、がれきの下から、手を伸ばして、陽太の足首を強く掴んだ。

「わあぁ」

 陽太は、よろめき、床に倒れる。

「陽太くん!」

 綾子が、あわてて陽太を助けおこす。

「スマイルはぼくのだ!」

「わたしのものだ!」

「ぼくの家に落ちたんだ」

「ちがう、わしの家に落ちて、お前の家に飛び込んだんだ」

 博士は、がんとしてゆずらない。

「ス、スマイル、ほんとうはどうなの?」

 綾子が、緑のボタンを押して、スマイルを固定していたアームをはずした。

「ぼくは地球のものだよ」

 スマイルの思わぬ言葉に、陽太も博士も押しだまった。

「たしかにそうだ。おまえさんは地球の財産だ」

 つぶやいた博士は、がくりとうなだれた。

「それから、ぼくは隕石じゃないんだよ」

 スマイルの言葉に周囲が静まりかえる。

「ええ、どういうこと?」

 陽太は、スマイルを、まじまじと見つめた。

「ぼくはコアから地上にやってきた地球星人なんだ」

「地球星人?」

「ぼくらは地球を創り、金属のかたまりとなって、コアと呼ばれるようになったんだ」

「コアが金属で出来ていて、磁界があるのはそういう理由だったのか」

 陽太はコアの世界を、パソコンの動画で見たのを思い出した。

「コアが地球を創ったという伝説を読んだことがあるが、まさか本当だったとは」

 博士はゆっくり立ち上がり、白いあごひげを指ですいた。

「実は、君たち人間は、大昔、よその星からやってきて、地表に住み着いた宇宙人の子孫なんだよ」

「ぼくらが宇宙人……」

 陽太はがっかり肩を落とした。

「陽太くん、気を落とさないで、君が宇宙人の子孫でも、ぼくたちは友達だから」

 スマイルになぐさめられても、陽太の心はスッキリしない。

「宇宙人の子孫だけど、君は地球で生まれ育ったから、地球人だよ」

 スマイルは陽太の気持ちを察してくれた。

「スマイルは、コアを代表して、地上にやって来たのね」

 綾子が話題を変える。

「さすが綾子ちゃん、するどいね」

 スマイルが綾子のスマホにピースマークの顔文字を表示させた。

「じゃ、コアを出た君は、博士の庭から飛び出して、ぼくの家の庭に落ちてきたってこと?」

 陽太はようやくドロボウと言われた理由に気づいた。

「そういうことさ」

 スマイルが、冷や汗、の絵文字をスマホに表示した。

「陽太くん、どろぼう呼ばわりしてすまなかった。このとおり謝るよ」

 南北博士は、陽太に深々と頭を下げた。

 陽太は胸をなでおろす。綾子がにっこり微笑む。

「陽太くん、ぼくをはやくおむすび山に連れて行って。地球がポールシフトしてしまう」

「そうだった。急がないと!」

 陽太はスマイルを握り締め、ふたたび、綾子と一緒に、おむすび山にむかった。


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