第5章 はなればなれ

「あと一つはどこだろう」

 ないも知らない陽太と綾子は、山のふもとを、ゆっくりと自転車を押しながら歩き、二つ目の祠を探し続けていた。

「陽太くん、あと五メートル進んで!」

 スマイルの声が高くなった。

「リュックに入っているのに、外の様子がわかるんだね!」

「スマホのGPSで位置を調べました」

「スマイル、すごいわ!」

 二人は自転車を押しながら、林の中に入っていった。

「すごいヤブ蚊だ」

 夜が明けて青空が広がっているが、林の中は薄暗く、蚊が陽太と綾子に、ブンブン襲いかかってくる。

「かゆい」

 綾子の腕がプクッと赤く腫れた。

「もう少しです」

 スマイルが二人を励ます。

 朝露で道がぬかるみ、靴もタイヤもどろどろだ。おまけに木々の太い根っこや、カニのこうらのような岩石に何度もつまずきそうになる。

「自転車を押してくるんじゃなかったわ」

 綾子は痒みや服の汚れでふきげんそうだ。

「でも帰りが楽だよ」

「こんな泥道、自転車で降りれないわ」

「つきました」

 スマイルの声に、二人は、顔を上げた。

「あの赤い祠です」

 たしかに、道の脇に小さな祠がある。

「ほんとね!」

 綾子のきげんがなおる。

 陽太は、手をのばし、隕石をとりだした。

「やったね」

 二人は手を取り合って大喜び。

「陽太くん、ぼくをリュックから出して」

「りょうかい!」

 陽太が一個ずつ隕石を外にだす。すると三つの隕石は合体して、一つの塊になった。

「これでポールシフトを何とか止められる」

「地球は人間に怒っているんでしょう。それをどうやって鎮めることが出来るの?」

「一時的なら鎮めることが出来るんだ」

 スマイルの返事は二人をがっかりさせた。

「もう一度、人間に心をあらためるチャンスを与えるってことだよ」

 二人の背後から、聞きおぼえのある声がした。

 いつ来たのか、南北博士だった。

「早く、ぼくらを、おむすび山の山頂に連れて行って!」

「もうじき日が沈むわ」

「我々にまかせなさい」

 南北博士が、陽太の前にかがみこみ、手をさしだした。

「まかせるって?」

「我々が隕石を山の頂上へ運ぶ」

「博士が?」

 陽太がためらっていると、

「この人たちは、ほかの星からきた、悪い宇宙人だよ!」

 スマイルが大きな声でさけんだ。

「こぞう、隕石をよこせ!」

 博士がひったくるように、陽太からスマイルを奪う。

「スマイルをかえせ!」

 陽太が博士に飛びかかる。

「そうはいくか」

 ニヤリと笑い、博士は、ひょいとかわす。

「えい!」

 不意をつき、綾子が博士の背中を強く押した。

「わあぁ」

 はずみで博士がドサッと茂みに倒れる。

 その拍子にスマイルが博士の手から弾けた。

「ひゃああぁ」

 スマイルは悲鳴を上げながら、坂道を勢いよく転がり落ちる。

「陽太くん、スマイルを追って!」

「そうはいくか」

 博士と助手は、陽太と綾子を突き飛ばし、隕石を追いかけた。

「綾子ちゃん!」

 陽太が、綾子を助け起こす。

「あたしはだいじょうぶ」

 綾子は立ち上がり、スカートの土や砂を払った。

「あの二人が宇宙人て、ほんとうかな?」

「わかんないわ。でも、きっと悪い人たちよ」

 陽太と綾子は、遠ざかる博士と助手の背中をしばらく目でおった。

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