第3章 スマイル

 部屋に閉じこもった陽太は、椅子にこしかけ、隕石を机の上のパソコンの前に置いた。

 突然、キーン、キーンとパソコンが動いて、液晶の画面が、明るくなった。

「おかしいな。スイッチ、押してないのに。省電力だったのかな」

 陽太はマウスを握り、不思議そうに画面をのぞきこんだ。

「陽太くん、こんにちわ」

 パソコンが話し始めた。

「だ、だれ!」

 陽太は、パソコンがウイルスに汚染されたか、ハッカーにのっとられたのかと思った。

 パソコンの液晶画面に、美しく輝くダイアモンドやエメラルドの映像が流れる。

「びっくりさせてごめんね。ぼくは、陽太くんの目の前の、隕石だよ。名前はスマイルっていうんだ。コンピューターにアクセスして、君と話すことにしたんだ」

 陽太は思わず目の前の隕石を見つめた。

「君、生きてるの?」

「見かけは岩石だけど、ぼくらは、れっきとした生命体なんだ」

「どうしてぼくの磁石をのみ込んだの?」

「長い旅で、腹ぺこだったんだ。ごめんね」

「大好物は金属なんだ」

「まあね」

「どうして、地球にやってきたの?」

「このままだと地球に異変がおきて、生命はあと一日で滅びてしまうから」

「うそだ!」

「うそでも、冗談でもないよ。ポールシフトが起きるんだ」

「知ってる。君がくると、地球がひっくり返り、大変なことになるって、博士からきいた」

「それは誤解だよ」

「じゃどういうこと?」

「人間が空や海や大地を汚しこわすから、地球が我慢できなくなって、地表を洗濯するんだよ」

「人間がいけないんだね」

「このままだと、ポールシフトする。そうなれば、地表は大洪水や火の海に包まれ、ほとんどの生き物が死んでしまう」

 陽太の顔が、いっぺんで青ざめた。

「地球は滅亡するの?」

「地球じゃなく、人類が滅亡してしまう」

「スマイル、どうしたら、ポールシフトを防げるの?」

「すでに地球の地軸が傾きはじめている。だからそれを止めて、もとあった場所に戻すしかないよ」

「もしかして北極星を目印に?」

「すごい! 陽太くん、よくわかったね」

「お父さんに、天体望遠鏡の極軸の合わせ方を習ったんだ」

 陽太は自信満々だ。

「リトルコアから、北極星を目がけて磁力を放射すれば、地球がひっくり返るの防ぐことが出来るんだ」

 スマイルは陽太の自慢話に付き合う気はないらしく話を先に進めた。

「リトルコア?」

「おむすび山にある、大きな岩石だよ」

「あの山なら、何度も行ったことがあるけど……そんな岩石あったっけ?」

「頂上に大きな岩石があっただろう」

「そういわれてみれば」

「ぼくをリトルコアまでつれて行って欲しいんだ」

「わかった、まかせといて!」

「こんどは失敗はゆるされない」

「失敗って」

「七十七万年前に同じような事件が起きたんだ。でもその時は、止められなかった」

「七十七万年前……」

 まったく想像できない大昔のこと。

「人類は一度、ほぼ滅んだんだ」

「どうして?」

「人間が、核で地球を汚したから、地球が怒って、ポールシフトしたんだ」

「それが七十七万年前のこと?」

「そうさ。ぼくは必死で止めようとしたんだけど、地球はゆるさなかった。人間を地表から追い払うって」

「今も人間は放射能で汚しまくってるね」

「だから急がなくちゃならない。人間も七十七万年前に学んで、今は多くの人が核の反対をしている。きっと地球もわかってくれるさ」

「がんばるぞ!」

 陽太は右手をにぎりしめ、ガッツポーズをとった。


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