第4話 の
まただ。
次は数学の授業だっていうのに、早川さんの机の上に教科書がない。
自分の机を早川さんの机に寄せると、
「僕の教科書、一緒に見ようよ」
教科書を早川さんの机寄りに置いた。
「ん?丸山何してるんだ」
その行為を見ていた先生が声をかけてきた。
「あ、すみません。僕教科書を忘れてしまって。
だから早川さんに見せてもらってるんです」
「またか。今週で三回目だぞ!気をつけろ」
「すみません」
適当に笑って受け流す僕の顔を、驚いた顔で見るのは早川さんだ。
「・・・・ぁ」
小声で何か言いたそうだったけど、
「いーの。どっちが忘れたかなんて、どうでもいいんだよ~。
それに僕。数学のテストの点数は良いから!
教科書を忘れた位のペナルティなんてどうって事ないんだ」
ペナルティがあるのか?ないのか?わかんないんだけどね。
適当に言っておいた。
早川さんの忘れ物は数学の教科書だけじゃなかった。
それは日に日に増えていき、教科書・体操着・最終的には上靴まで無くなった。
上靴ではなくスリッパを履き、ありとあらゆる物が消えているっていうのに、担任はおろか他の教師達も早川さんの異変に気づく人は誰も居なかった。
もしかしたら気づいているけど、知らない振りをしてるんだったりして。
僕ですら これって誰かが早川さんの物を盗んで隠してるんじゃないの? と誰かを疑っている状態なのにさ。
まぁ・・・・・犯人はなんとなく誰か想像は付くんだけど・・・・・。
遠くの席からニタニタしながらこちらを見てる女子グループ。
真夏達だ。
「あれ?早川なんでスリッパ履いてんの?
もしかしてゴミと間違えて捨てられてたりしてー」
とか言って大声で笑っている。
まさか・・・・・と思いつつ、大きなゴミ箱を覗きに行くとそこには 早川 と書かれた上靴と教科書が捨てられていた。
教科書には落書きとかされてボロボロになってるし。
誰がやったのかわっかりやす過ぎー・・・・・・・。
それを手に持ち、教室へ戻るべくUターンをすると後ろには早川さんが立っていた。
僕が持っている上靴や教科書に目線が来ている。
やべっ。俺が犯人だと疑われちゃ展開?!
「あのさ!これは・・・・」
「・・・・知ってる。捨てられてたんだよね。・・・いつもだから」
そう言うと早川さんは俺の手から教科書と上靴を奪い取り、教室へと黙々と歩いて行った。
早川さんが言った いつも って言葉が頭の中に響く。
いつも早川さんは真夏達に教科書や上靴を捨てられては、1人で取りに来てたんだ。
・・・・・・知らなかった。
無くなった教科書や上靴を1人で探してここに取りに来ていた時、彼女は何を考えていた?何を思っていた?
悲しかった、辛かった、惨めだった・・・・・。
早川さんの気持ち・・・・・俺には凄くよくわかる。
「あのさ!このままじゃダメだと思うんだ」
「・・・・・大丈夫」
早歩きで教室へと歩く早川さんを追いかける。
「大丈夫じゃないよ!こんな生活、ずっと我慢するの?」
「・・・・・うん。私は大丈夫」
「こんな事されて我慢する必要なんてないじゃん!それに全然大丈夫なんかじゃ・・・。
教科書だってボロボロだし、上靴も汚れちゃって・・・・・」
「もう高3だし。もう少しの我慢だから」
なんで早川さんが我慢しなくちゃいけない?
なんでイジメられる側が耐えなくてはならない?
耐え続けて・・・・我慢し続けたってイジメは消えない。
むしろどんどん悪化していって・・・・・最後に・・・・舞は・・・・・・。
「だってもし自殺したら?死んだら今までの我慢が全て無駄になっちゃうだろ!!!」
つい感情的になり、大きな声で叫んでしまった。
早川さんは立ち止まると、驚いた表情をしながらこちらを振り向く。
「・・・・・・私死んでないし、死なないよ?」
「そ・・・・うだよね。はは・・・・・なんか僕感情的になっちゃって・・・・。
なんていうか・・・・はは・・・・・」
気まずい・・・・。
「ありがと。なんか・・・・困ってる時に助けてくれたのって、敬太以外に初めてだからびっくりしちゃって・・・・。
でも私は本当に大丈夫だから。
敬太がいつもついてるし・・・・・」
「あぁ・・・・そうなんだ・・・・。
敬太君って早川さんにとって、とても強い味方なんだね」
「うん。敬太は私のとても大切な人」
そう言うと早川さんは控えめに微笑むと、また教室へと力強く歩いて行った。
その後ろ姿を見ながら、僕も教室へと歩いていく。
なんか・・・・・俺のやる事、言う事、全て空回ってるわ。
僕が心配するより、早川さんはずっと強い人だった。
敬太君もとても強い人なんだ。
俺と舞の関係よりも、早川さんと敬太君の絆の方がずっと強い。
俺が・・・・あの時、とても弱かったから・・・・。
だけど・・・・・僕も少しでもいい。
何か変えたいんだ。
教室へ戻ると、自分の教科書をカバンから全て取り出した。
それを早川さんの机の上にドサっと置く。
「・・・・ぇっ?」
またまた驚いた顔をした早川さんと目が合う。
今日は早川さんを驚かせてばかりだ。
「あのさ、教科書交換しよ!そんな汚いのじゃあ勉強しにくいでしょ」
「いや・・・・でも・・・・」
「大丈夫!僕は勉強しなくても成績が良いから、教科書使わないんだ。
だから汚くても全然平気」
早川さんの机から汚い教科書を全て没収すると、強制的に自分のカバンの中へ詰めていく。
その一連の行動を真夏達は怪訝な顔をして見ていた。
・・・・・このままじゃ終われない。
放課後。
掃除が終わっても教室に残り続ける真夏達へ近寄った。
「・・・・どうする?また教科書隠す?」
「ん~、微妙だよね。なんか最近やけに早川の周りを丸山君が気にかけてるみたいだし」
「なんであんなに丸山君は早川を気にかけるんだろ?」
「意味わかんないよね~」
作戦会議・・・・・って所かな?
そのまま黙って話を聞くよりも手っ取り早く・・・・・。
僕はドカドカと教室内へ突進していった。
「えぇ?!ま、丸山君??!!!まだ帰ってなかったんだ~。
・・・・・いつから居たの?」
今の会話が聞かれてないか?気になっている模様。
「今の話、聞いてたよ。
なんで早川さんの教科書を隠したりするの?
もうそういうの止めようよ。高3だよ?僕達。
そんな幼稚な事止めようよ」
回りくどい話なんていらないんだ。
ストレートに言う。
後悔したくないから。
真夏達は困った表情をしながら、互いの顔を見合っている。
どう切り返すか悩んでるみたいだ。
「・・・別に、うちらじゃ・・・・・。
証拠は?うちらがやったっていう証拠はあるの?」
「証拠はないけど・・・・今の話は廊下で聞いてた。
真夏ちゃん達が早川さんの物を隠してたって話を」
証拠がないと言うと、真夏達は先程の表情から一変し、強気な態度へと変わった。
「証拠がないならうちらの事犯人って疑わないでくれる?」
「うちらがイジメをやったって疑われるなんてショック~」
「明日から学校休んじゃうかも」
ヘラヘラ笑う彼女たちを見る限り、ショックで学校を休むなんて事はなさそうだ。
「証拠はないけど、お前らがやったんだって僕にはわかるよ」
「何それ?丸山君ってそういうキャラだったの?なんかガッカリ」
「っていうかなんでそんなに早川にこだわる訳?
もしかして早川に一目惚れしちゃった~とか~?」
「一目惚れとかそういうんじゃないよ。
ただイジメとかそういうのが嫌いなんだ。
もう卒業まで一年ないんだよ?
みんなで仲良くしたいんだ!」
上手く言葉で説明したかった。
こんな無意味な事止めようって。
「仲良くするとか無理でしょ~。
あんなキモイのと。
種族が違うっていうかさ~」
「じゃあ仲良くしなくてもいい。
でももう嫌がらせとかイジメは止めない?
自殺しちゃってからじゃ遅いんだ。
死んじゃったら取り返しがつかないからっ!」
伝えたかった。
死んだらもう生き返らない。
後悔しても遅いって。
「自殺って何?もしかして早川に泣きながら相談されちゃったとか?
キモッ」
「なんか丸山君に失望しちゃう~。
なんであんな根暗でいじめられ体質なゴミを好きになるのかな~?
ボランティア精神とか?
イジメられっ子を助けていい子ぶりっ子した自分に酔っちゃうタイプとか」
「やめときなよ。折角カッコイイのにさ~。
そんな事してたら丸山君まであっちの世界に落っこちちゃうよ?
そんなの勿体無いじゃん!
今の会話、無かった事にするから今度デートでもして・・・・・」
全然伝わらなかった。
僕が考えてる事って綺麗事なのかな?
夢の中の話なのかな?
ただの理想論なのかな?
すっげぇ・・・・脱力感。
やっぱり俺、何も守れないし、変える力もなかったわ。
「俺・・・・・君達が言うあっちの世界の人間だから。
キモくてウザくてゴミ扱いされるあちら側の人間だったから。
だから、君達がいうそっちの世界の事、全然わかんねーわ」
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