第3話 り

「これ今日のお弁当。本当にこの量でいいの?

結構痩せてきたんだし、そろそろもっと量を増やしても・・・・」


「これで十分!油断してまた太ったりしても嫌だから」


母が作ってくれた弁当をカバンの中に入れると、家を出た。

弁当は小さなおにぎり一つにおかずは野菜と卵焼きのみにしてもらっている。

少食だから・・・・っていう訳ではなく、太らないように節制しているだけ。

現在高校三年生。

本来ならこの量の倍の倍の倍以上の量を食べたい。

だけど、我慢。

また以前みたく太りたくないから。


痩せ始めてからそろそろ一年。

初めの半年でガッツリ落ちてからというものの、緩やかに現在も体重は落ち続けている。

どこまで体重を落とせばいいのか?自分でもよくわからなくなっていたりもするけど、現状で満足する訳にはいかない。

きっと僕は まだまだ 許される位置にはいないんだ。


約束したから。

もうあの時みたくならないって。



「おはよー」


教室へ入るとパラパラと挨拶をしてくれる。

以前同じクラスメイトの真夏に 早川さんを関わると仲間はずれにされる って忠告されたけど、僕はそんな忠告をお構いなしに彼女に話しかけ続けた。

結果・・・・露骨に仲間はずれにされる事もなく、挨拶をしてくれたり会話をしてくれる子達は全員ではないけれど居てくれて、特別この学校で生活するのに困る事はなかった。


「おはよう」


挨拶をしてくれた子達に挨拶を返しつつ


「おはよう早川さん」


となりの席に座る早川さんにも毎朝欠かさずご挨拶をするのが、僕の日課だ。



「・・・・ぉはよ」


挨拶を毎日続けた結果、早川さんは毎日消えそうな位小さな声だけど僕に挨拶をしてくれるようになった。

そんな些細な事が僕にはとても嬉しい出来事だった。

少しずつ彼女から信頼を得ていきたい。


「今日も早速敬太君に連絡してるの?」


早川さんは手が空いた時は常にスマホをいじっている。

敬太君に些細な事でも報告しているみたいだ。


「うん。敬太と常に連絡を取っていないと不安で・・・・」



「何それ?それって恋愛依存って奴?」


突然会話に入り込んできたのは、僕の前に座る西川君。


「依存っていうか・・・それが日課っていうか・・・・」


敬太君との関係を上手く説明しようと頑張るが言葉が思い浮かばないのか?苦々しい表情を浮かべる早川さん。

どうやら困っている様子。

自分が思っている事が上手く伝えられずにゴモってしまう気持ちよくわかる!

僕もよくこうなっては周りにからかわれたのを助けて貰ったんだっけ。

次は僕が助ける番だ。


「それが依存っていうんだよ。自覚がないだけでぇ~・・・・」


早川さんの困惑した様子が理解出来ないのか?尚も追い打ちをかける丸山君に対して、


「わかる!そんなの全然依存なんかじゃないって!

早川さんと敬太君って幼馴染で小さな頃からずっと一緒だったんだって。

僕にもずっと仲良くしてた幼馴染が居たから、なんていうか特別な存在っていうかオカシな事じゃないっていうか・・・・」


上手く早川さんの気持ちを代弁しようとするが・・・・・・なんか上手くいかない。

早川さんと同じくモゴモゴしていると、


「ん?丸山って幼馴染がいんの?」


上手く話題を逸らす事に成功した。


「うん、いるよ。今は会えなくなっちゃったけど」


「お前この前こっちに転校してきたばっかりだったっけ。

ん~ま、俺引越しも転校もした事がないから、友達と離れ離れになる気持ちなんてわからんかったわ~」


「転校は今まで生きてきた事が良くも悪くもリセットされるから、僕は好きだよ。

生きていればいつかは会えるしね」



早川さんの事を上手くフォロー出来たワケじゃないけど、とりあえず話題は反らせたからOKかな?

僕にはまだ相手の気持ちを上手く伝える話術は持ってないから、次はこの点を勉強しなくちゃ。


早川さんを見ると、僕に微笑んでくれたように思えた。

上手にフォローできた訳じゃないから感謝されたようにも思えないし、

んー、気のせいかな?



なーんて思っていたんだけど、お弁当の時間。

いつも通り1人で自分の席でお弁当を食べていると、同じく自分の席で1人でお弁当を食べる早川さんが小さなお弁当箱を僕に差し出してきた。


「これ、あげる」


小さなお弁当箱の蓋を開けてみると、そこには唐揚げが3つと卵焼きが入っていた。

早川さんの机の上を確認すると、そこにはおにぎり二つとお茶のみが置いてある。


んん???これって早川さんが食べる予定だったお弁当なんじゃ???



「いいよ!これ早川さんのお弁当でしょ?これは早川さんが食べて!」


と早川さんの机の上に戻そうとすると、早川さんは手でお弁当箱を押し返す。


「いつもお弁当少ししか食べてないみたいだから。・・・・これで良かったら・・・・」



・・・・・僕のお弁当がいつも少ないこと、見てたんだ。

僕に対していつも興味が無さそうだったのに、実は気にかけてくれていたなんて。

うっわー・・・・・・、なんか泣きそう。

折角の早川さんのご好意だが、今はダイエット中!

油断は出来ない。


「あぁ・・・これね。実は今ダイエット中でさ。

太らないようにお弁当を少なく作ってもらってるんだ。

気にかけてくれてありがとね」


ここで泣いたらオカシな人間だと思われる!

だから泣いたらいけない。

涙を堪えながら、お弁当箱を返した。


あぁ・・・・さようなら。初めての気づいかいと唐揚げ・・・・。


ぶっちゃけ僕だってお弁当箱を返すのは名残惜しかった。

唐揚げなんて一年食べてないし、折角の行為を突き返す事にとてつもない罪悪感があった。


「そうなんだ、ごめんなさい。余計な事をして・・・・」


お弁当箱を受け取った早川さんは、気持ちテンションが下がったきがする。

やっぱり傷つけてしまったか。

そうじゃないんだ!受け取りたくなかったんじゃない!受け取れなかったんだ!!


「全然余計なんかじゃないよ!凄く気持ちは嬉しかったし!ダイエットなんてしてたから・・・・」


僕の 名残惜しい気持ち を上手く伝えようと必死にフォローするが、やはり上手い言葉が浮かばない。

んんんんんん!!!!俺って昔っから口下手で肝心な時に上手くしゃべれないんだよな!!!!

自分の気持ちを表現する事が苦手っていうか!!!!

と、自分と葛藤していると、


「ほーーーーーんと!!余計な事しちゃって。

丸山君は体型維持も意識高くやってんのに、早川は空気読めないっていうか~」


と嫌味ったらしく喋りながら近づいてきたのは、早川さんをいじめている疑惑がある真夏。

こういう時にこういうのをぶっ込んでくるのが上手いというか、空気を悪くする事だけは天才的というかなんというか・・・・。

つくづく苦手なタイプだ。


「そんなんじゃないって!僕は全然意識高くないし、太りやすい体質で・・・」


真夏のせいでオカシな誤解を植えつけられたくない!

必死でフォローに再び走るが、


「そういう事も理解出来ずに唐揚げあげちゃうってどういう神経してんの?

そんなんだからアンタは友達が1人も出来ないんだって!」


やっぱり女性は口が達者というか何というか。

真夏の口からは早川さんを罵倒する言葉が耐えずにポンポンと出てくる。


だけど、僕だって負けてはいられない!

ここで食い下がったら いつもの俺 と同じ。何も成長していない、変われていない事になる!!


「友達なら居るだろ!僕が・・・」


と、格好良くキメたつもりが


「へぇ~丸山ダイエットしてんの?今でも十分細くね?」


会話に割り込んできたのは西川。

なーーーーんでここで君まで割り込んでくるかな~~~~~~~。

と、突っ込みたいが僕は全員と平和に楽しく過ごしたいと決めてこの学校へやってきた。

だから・・・・



「うん、ダイエットしてて。今は細いのかな~?自分ではわかんないかな~」


「細いよ!しかもめっちゃイケてるし!」


「ダイエットって食事制限以外に何をしてるの?おすすめのダイエットを教えてよ~」


質問に答えたつもりが、ダイエットというワードに他のクラスメイトの子達も反応して、結局早川さんに上手くフォロー出来ないまま昼休みが終わってしまった。



ダイエットなんかに拘らず、あの時唐揚げを素直に受け取っていれば良かったのにって後悔で、その日は中々眠る事が出来なかった。

もう後悔する人生は嫌だって強く誓ったはずなのに。

いつもくだらない事をクヨクヨ悩んでは、後悔ばっかりしてしまうんだ。


やっぱ俺、何やっても上手くいかねーわ。

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