第5話 き
いつものように母が作ってくれたお弁当を受け取る。
カバンの中に入れようと開いた時、
「その教科書はどうした?」
父が声をかけてきた。
お弁当を入れる際にカバンの中に入れてあった教科書が見えたみたいだ。
「これは、なんでもないよ」
隠すつもりなんて全然なかった。
ただ説明すると長くなるから。
「帰ったら話そう!」って軽く思っていただけ。
お弁当をカバンの中にしまうと、足早にリビングから出ると、
「まさか・・・またイジメられているの?」
母が心配そうな表情をしながら、後ろから声をかけてきた。
あー・・・・・、父が余計な事を言うから、母も心配しちゃったじゃないか。
母にはこれ以上、心配も迷惑もかけたくなかったのに。
「ん?いや、僕じゃないんだ。
話すと長くなるからさ、帰ったら話すよ」
心配かけるのは悪いが、今は時間がない。
靴を履き家から出ようとした時、
「なんだ、お前じゃないのか。
それは良かった。
でも厄介な事に巻き込まれてるんじゃないだろうな?
折角転勤願いまでだして、見知らぬ土地まで来たっていうのに・・・・」
父のボヤキが聞こえてきたけど、強制的に家を飛び出すと足早に学校へと歩いて行った。
イジメられたのが僕じゃなきゃ、それでいいの?
だれかに押し付ければ・・・・・そんなんじゃ、前と何も変わらないじゃないか。
父は何もわかってない。
僕の事を心配してくれた両親に対してこんな態度を取ってしまった事は、とても悪いとは思っている。
でも今日は学校に遅刻する訳にはいかない。
「いつもどおり」に過ごさなくては。
それは何故か?というと昨日真夏達に俺がいじめられっ子だったって事をカミングアウトしたからだ。
いつもと違う所や弱い所を見せたら、またイジメられる。
だから僕はいつも通り平常心を保ちながら、今日一日過ごさなくてはならない。
いや、これからも ずっと だ。
俺がイジメられっ子って知ったら、皆の態度に変化はあるのかな?
いじめられっ子って知った途端、皆が僕をイジメ始めたら・・・・・?
そんな事を考えている間に学校へとついた。
正直教室なんかに入りたくない。
あー・・・・・折角この学校ではうまくやっていけると思ったのに。
どうして自分がいじめられっ子だったって事、カミングアウトしちゃったんだろ。
後悔してももう遅い・・・・・・・か。
教室の扉を開けると、みんなが一斉にこちらをみた。
おしゃべりで性悪な真夏のことだ。
すでにクラスメイト全員に僕がいじめられっ子だったって事、しゃべっているだろう。
皆は僕に対してどういう態度を取るのだろうか。
すっげぇーーーー緊張する。
ドキドキドキドキ・・・・・。
心臓が飛び出しそうだ。
緊張しながら自分の席へと歩いていく僕に対して、クラスメイトはいつもと同じようにまばらに挨拶をしてくれた。
僕も挨拶を返しつつ、席へと歩いていく。
あれ?皆僕がいじめられっ子だったって事、もしかして知らないパターン?
そんな事を思いながら席に辿り付き、
「おはよう、早川さん」
いつも通り早川さんに朝の挨拶をする。
「・・・・ぉはよう。あの・・・」
と、早川さんが口を開いた時、前の席に座る西川君が振り返り口を開いた。
「おはよう、丸山。聞いたよ~丸山は前の学校でいじめられっ子だったって事」
イジメ という言葉を耳にした瞬間、ドキっ!っと心臓が止まりそうになった。
やっぱり真夏はクラスメイト全員に僕がいじめられていた事をバラしたみたいだ。
つくづく嫌な奴だ。
「うん。そうだよ。僕前の学校でイジメられちゃっててさ~」
「そうなんだ。だからお前、クラスの奴ら全員に対して平等に接するんだな。
超いいやつじゃん」
ん?
西川君はにっこり笑っていた。
その笑顔は決してバカにしてる物ではなく、優しい表情だった。
「もしかしてイジメられた事がキッカケでダイエットをしてるとか?」
「・・そうだけど・・・。僕前結構太っててさ~」
「今でも努力し続けるって超カッコよくね?俺なら途中で挫折しちゃうわ~」
西川君だけじゃない。
周りのクラスメイトも暖かい視線をこちらに向けていた。
そんなみんなの優しい対応がなんか嬉しくて・・・目頭が熱くなってきた。
「何?どうした?!泣いてんのか?!あ、ごめん!イジメられた事思い出しちゃったとか?
やっべー・・・・・」
と焦る西川君に
「違うよ。正直イジメられてた事がバレたら、皆に引かれたりイジメられるんじゃないかって心配で・・・・・」
手の甲で涙を拭いながら、誤解を必死に解いた。
「そんな事しねーよ。もう高3だし!それに今は受験や就職で皆頭がいっぱいで他人をいじめる余裕なんてねぇよ」
・・・・そんな風に考えてくれる子達が居て、凄く嬉しかった。
いじめられっ子だった僕を迫害しないでくれた事にとても感謝した。
凄く暖かい気持ちになりながら、今日一日学校を過ごす事が出来た。
そしてこれからも過ごせる気がする!
帰宅してから僕の事を心配してくれた父と母に、
「この学校ではイジメられないよ!大丈夫だから」
と胸を張って言う事が出来た。
両親はまだ不安そうな表情をしていたけど、もう大丈夫。
僕はこの学校で楽しい学校生活を送り、卒業する事が絶対に出来る。
夢にまで見た充実した学園生活に、やっと巡り会えたんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます