第2話 憧れの、定期券


こんにちは。たまこです。

今日は少し時間をさかのぼりまして、

3月31日でお届けします。


***********


こんにちは。たまこです。

みなさんいかがお過ごしでしょうか。



さて、

私たまこは、4月1日付の人事異動により、片田舎の故郷を離れ、X県の中心部=都会へ転勤となります。明日を前に、先ほど引っ越してきました。


ですが、

荷ほどきもそこそこに、いそいそと駅に向かいまして、電車にゆらゆら揺られております。最寄りの大きな駅で通勤定期券を買うためです。


休日の午後ですが、乗客はまばら。

向かいの席では、3才くらいの男の子がお母さんと仲良く座って話しています。


「なにあれぇ」

「桜だよ」

「なんでぇ?」


なんで?とはどういう意味でしょう。

桜がなぜ咲いているのか、という意味でしょうか。それとも、なぜ、あの桜を自分が認識しているのか、という話でしょうか。


深いですね。私はこの問いに上手く返せる自信がありません。子育ても大変です。


おや。



、、、危ない危ない。

二人に気をとられて、乗り過ごすところでした。


駅に到着です。


改札を出て、辺りをキョロキョロしていると、ありました、ありました。


『定期券購入窓口』



行列ができています。

私も参戦です。


「よし」


とりあえず、鞄から財布を取り出し、中を確認。

あります。

実家にいるうちにおろしておいた、

12万円。大金です。


「よし」

とまた小さく呟いて、

さぁ、窓口です。




なぜこんなに気合い十分かといいますと、


実は、私たまこ、初めてなんです。


あの、

ピッとするカードを、人生で初めて手にする瞬間なのです。


もうこれは、ビックイベントといいますか、大事件といいますか、ともかく、大変な出来事です。

あの、憧れのカードを手にいれるんですから。


定期券は前の職場のときにもっていました。

でも、決して「ピッと」するやつではありませんでした。


なぜなら、私の故郷に自動改札機がないからです。


切符は駅員さんに手渡しですし、

無人駅のときは、電車を降りるときに運転士さんに渡します。


定期券は、駅員さんがその場で、普通紙をラミネートしてくれました。


別に、それがダメとは言いません。

おじさんの手によって、ラミネータからゆっくり這い出る定期券。

ほんのり暖かく、人肌を感じます。


でも、改札を「ピッと」抜けるのは密かな憧れでした。たまに都会に出たときは、「ピッと」音を尻目に、切符売り場に並んでました。

自分が、あの魔法のカードを手にすることさないだろうと思っていたのに。


、、、感慨深いです。



「次の方」



「はいっ」


ついに、来ました。私の番です。


「よろしくお願いします」


窓口のおじさんは、

私が差し出した申請用紙を分厚い指でつまむと、黙って、パソコンをカチャカチャと鳴らしはじめました。


「11万1470円です」



窓口のおじさんは、少しお疲れのようです。明日から4月です。

きっと多くのひとが、新しい毎日のためにこの窓口に並んだことでしょう。


そう思うと、

この窓口は、明日からの新生活への入り口のようで、このおじさんは、入り口でみんなを見守っている門番みたいです。



「こちらが、定期です」



ついにできました。ピッとする定期です!



スーパーのポイントカードくらい小さくて、ブルーの背景にちっちゃいカモノハシがくっついています。

ちゃんと名前も入ってますね。


『本宮珠子』


、、、私の定期。

これで、私も、ピッとできるんですね。



「ありがとうございます」

お礼をいうと、

門番のおじさんは、眉間のしわを緩め、にこりと微笑みました。


「領収証は要りますか?」

「はい、ください」


では、

定期で帰りましょう。


とりあえず、新しい定期券は長財布に入れました。(反応しないと怖いので、一番外側についているカード入れのところです)



あとは、改札を抜けるだけ。


「よし」

念のために、他の人の様子をみておきましょう。



向こうから買い物帰りのおばさんがやって来ました。

改札に近づくと機械の右上のところにカードを、


「ピッ」


そのまま改札を抜けます。


ふむ。


もう1人だけみておきましょう。

今度はおじさんがやって来ました。


「ピッ」


ふむふむ。やり方はわかりました。


もう1人だけ、


いや、止めておきましょう。

このまま、改札前で動かなくなりそうです。



仮に、『ピッと』ならなくても、駅員さんもおられます。

大丈夫、できる。


「よし。」


たまこ、やってみます。



改札機の辺りに人気がなくなった瞬間を見計らい、急いで近づきます。


あ、待ってください財布からカードを出した方がいいのでしょうか他のポイントカードが邪魔したりするのでしょうかいやそんなこと考えている時間はないもう目の前が改札ですとりあえず財布ごと改札機にちかづけてみま

「ピッ」




できました。

ピッと鳴りました。財布ごとでもいけました。よかった。



「ふぅ」


何だかこの数分で、自分が少しレベルアップした気がします。明日からは、もっとスムーズに改札を抜けられるよう精進せねば。



今しがた電車が出発したようですので、

私は、ホームでしばらく待つとします。



それでは

今日のところはこの辺で。



たまこ


(つづく)

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