たまこの新しい毎日

あらたあやか

第1話 はじめまして、たまこです。


春です。電車越しにみえる桜が風にあおられ、鞠のように弾んでいます。

空は薄青く晴れ、明け方降った雨が屋根を濡らして光っていました。


が、満員電車に乗る人たちに、それらを楽しむ余裕はなさそうです。

座席に座る人たちは、マスクをしたまま俯きつづけ、座れなかった人たちは、つり革に掴まりながら、鞄を抱えて揺れに耐え忍んでいます。

そういう私もたくさんの人に押し潰され、ドア窓にへばりついている次第。スマホをいじり音楽を聴き、どこぞの洒落たカフェマグを片手に出勤なんて、夢のまた夢。指ひとつ自由に動かせません。でもまぁ、外の景色が見れるだけでもラッキーなのかもしれませんね。



こんにちは。はじめまして。

たまこと申します。

本名は、本宮珠子。真珠のような美しい子に育ってほしいという両親のもと、X県の片田舎ですくすくと成長し、真珠というよりお餅みたいな姿になりました、25歳です。


大学を卒業後、県内企業のR社に入社した私は、いくつもある支店のひとつに配属されたのでした。そこは、実家から電車で1時間ののどかな町で、おおらかな仲間に囲まれ、せっせと働いていたのですが、、、



気づけば、見知らぬ土地で満員電車に揺られております、たまこです。


それは、なぜか。


そう、社会人の多くが経験するアレです。


『転勤』


そうなんです。

働きはじめて3年目を終えた私、たまこは人事異動で本社へ転勤となったのでした。



ふぅ。


やれやれ、

今ようやく電車から降りることができました。毎朝このように人工プレスされていたら、もう少しスリムになるかもしれません。


X県は、南北格差が大きいことで有名です。中央を横断する山を境に、北は古きよき日本を感じる自然豊かな田舎町。一方南は、県庁所在地X市を中心に進化した大都会です。


私たまこは、北の田舎町から一転、X市中心部の大都会へと踏み込んだわけです。


4月から始まる新しい生活。

これから一体どうなることやら。

私は、この街でやって行けるのでしょうか。


これから、

私、たまこが送る新しい毎日を、ここに記していくつもりです。ささやかな日常を皆様と共有できたらと思います。


どうぞよろしくお願いします。



たまこ


《つづく》


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