第39話 屍術王VS放縦帝
ヒツギとベントレー、両者の魔力が迸り、互いに相手を憎んでいるのが伝わる。
どうあっても理解し合えない二人。この結末に至るのは必然だったのかもしれない。
「その愚かしさを抱えて死に絶えよ! 《
「来るがよい。その醜さも含めて、悉くを飲み込んでやろう! 《魔術吸収》!」
魔王になったことで増した魔力を以って放たれる、闇属性の極大魔術。
紫黒色の超巨大な球体が高速で突き進み、点は線となり、黒い光線となった。
それを竜巻のような突風を発生させ、吸収していくベントレー。彼の許容量を超えればその固有魔術は打ち破られ、一度取り込んだエネルギーは周囲一帯に爆散する。
すなわち、ベントレーの敗北はアーガス王国軍の壊滅を意味していた。
「ハハハハハ。どうしたクソデブ。お前が気張らねば、全滅は免れんぞ。精々頑張れよ」
「お、おおおおおおおおおお、おぉぉぉおおおおお! これしき、食い散らしてやる!」
やがて凄まじい轟音は収まり、ベントレーがヒツギの《暗黒凶星》を吸収し切った。
「どっ、どうだ! 屍術王。若干キャパオーバーだが、喰い切ったぞ……!」
「それはご苦労なことだ。では、満足して死ね! 《死者の呪腕》」
ヒツギは《暗黒凶星》を放った後、すぐに《ロングジャンプ》でベントレーの背後に瞬間移動する準備を整えていた。そして猛烈な魔力の波動が収まった刹那、姿を現した。
紫黒色の炎が灯る、ヒツギの右腕がベントレーの背中に触れる。
「…………は……ぁ?」
茫然とするベントレーの残された魔素を、ヒツギの呪腕が吸い取った。
「吸収魔術さえ使えなくなれば、お前はただの豚だ。鍛錬不足が仇となったな、腑抜け」
振り返ったベントレーの左胸に、ここで死にゆけと、ヒツギの貫手が迫る。その瞬間、
「まったく、手のかかる王子様ですねぇ。《
巨大な鮫型の蒼い魔素エネルギー弾がヒツギに襲いかかる。それは水属性の大魔術。
その魔術が被弾する寸前に、ヒツギは大きくバックステップで距離を取った。
「…………誰だ?」
「水光混合魔術! 《青の閃光》(アジュールフラッシュ)」
蒼い煌めきでヒツギの目が眩み、一瞬意識を失いかける。
次に目を開けたとき、目の前にいたのはベントレーなどではなく、
「《
二年の歳月を経て、生身で向き合う元『師』と『弟』。だが、今の二人の立場は、昔とは違う。ついに人間側の最大戦力がその姿を現した。彼女の行動は敵対か、それとも――
「《
視界から消え去ったと思うと、瞬時に体勢を低くして、こちらの懐に潜り込んできたヒルデの瞳と目が合った。そのときには、すでに彼女の拳は放たれており。
「その技、懐かしいな……《
ヒルデガルドの拳がヒツギの腹を勢いよく穿つ。衝撃が背後に突き抜ける。
しかし、彼の腹部は鉄のように硬く、鋼のように頑強だった。
いつの間にか、ヒルデの手のひらに握られていた魔杖が、剣のように振り下ろされる。
「まさか、貴女がこの俺に接近戦を挑んで来るとは、ね――
ヒルデガルドの杖術を、ヒツギは中国拳法の《化勁》を用いて難なく捌く。
久しぶりに『先生』と会ったせいか、ヒツギの一人称が安定しなくなっていた。
「ふふっ、まずは屍術王への回復を受け付けないようにしましょうか! 《光絶つ雨》」
蒼天に雲がかかり、雨粒が降り注ぎ始めた。超広範囲水光混合魔術。
ヒルデガルド・エーベルが編み出した、他者の光属性適応率をゼロにする魔術。
「無駄だよ、《放縦帝》。私の体はまだ動く。魔力も十分だ。貴女の相手くらいは務められる。仲間にも手出しはさせない。久しぶりにタイマンといこうじゃないか」
「早速慢心ですか、感心しませんね。飲み込め! 《
それは水属性の極大魔術の一つ。やろうと思えば町一つ飲み込むことが可能な大技。
ヒトの頂点に立つ《七聖天帝》が放つ、広範囲水属性究極魔術。
黒雲から大量の雨が零れ落ちてくる。そしてそれは止まることなくさらに勢いを増し。
大地を水没させようかというほどに、あらゆるものを飲み込み、多大な被害を与える。
「なん……だと……」
ヒツギは宙に逃れようとしたが、その洪水の流れに逆らうことができず、体を波にさらわれる。なぜか水位は自分の頭を越えており、呼吸ができなくなる。
闇魔術の転移すら発動しない。
これは一体全体どういうことだ。
(ふざけるなよ、この俺が……)
全身を荒波に呑まれ、体内から魔素が抜けていくのが分かった。これが《蓋世王》の言っていた、《屍術王》としての性質。命の象徴である『海』、水属性魔術に耐性がなくなる。
否、それだけではない。この《
(大見得を切っておいてあっさりと敗れる。これ以上の醜態はない……!)
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