第21話 屍術行使

 ◇ ◇ ◇


 調教時に行使した魔術は数知れず、彼女が覚えているだけでも、《失神回復》、《性感操作》、《感度向上》、《精力促進》、《理性剥奪》。淫蕩に耽る中で何度も繰り返し使った。

 どれぐらいの時が過ぎたか。興が乗ったリリスは、ヒツギの頭がおかしくなるまで、彼が意識を失っても、一晩中犯し続けた。気絶したら、媚薬と香で強制的に覚醒させる。

 上から下まで、頭の先から足の先まで、ゆっくりと焦らすように。

 時間をかけて、たっぷりねっとりと、リリスはヒツギの躰を開発した。

 もう彼は、リリス以外の人間に触れられても、すぐに達してしまうほど感度の高い、全身性感帯の、快楽に弱いエッチな躰になっている。


 ◇ ◇ ◇


「あ、ヒツギちゃん、動かなくなっちゃった。これ、生きているのかしら~?」

「うっ……あ、あぁ………………っ」

「あら、あまりの気持ち良さにまた失神しちゃったか。ちゅっ♪ 可愛かったよ。おやすみ。ゆっくり休むんだよ。結界は張っといてあげるから。今のキミ、とっても素敵よ」


 リリスは自分が何回絶頂し、何回ヒツギのことを果てさせたのか覚えていない。それほどまでの、数え切れない快楽を、彼女はヒツギの躰に刻み付けた。

 ヒツギの右手の甲に、特殊な紋様が浮かび上がり、桃色に妖しく光る。


「もうヒツギちゃんは、触れられた女にすぐに服従しちゃうような、立派な性奴隷よ」


 躰の真の芯まで舐るように教え込むように、リリスはヒツギの耳元で囁いた。

 陶酔した彼女が見せる笑みは、凄絶に淫らで、艶やかで、美しかった。


「本当は《性転換魔術》をかけて、本格的に孕ませたかったのだけど……生憎、サキュバスである私自身は《性転換》できないのよね~。今度、竿役でも見繕っておきますか」


 彼の躰がビクビクと痙攣する。意識がなくても快楽の悦びに躰が震えていた。

 元から敏感だったヒツギの躰に、サキュバスの媚薬を染み込むように注がれ、与えられた快楽は、文字通り死にそうになるくらいの快感だったのだろう。

 並の人間ならば死に至るような、脳が焼き切れるほどの甘い熱の、絶頂の奔流。


「この契約印――《淫紋》がある限り、キミは私に危害を加えることも、逆らうこともできな~い。そしてタガは外れ、異性に引き寄せられる。これでキミは快楽の虜だ」


 そう言い残し、口の端をペロリと舐めたリリスは、その場から姿を消した。


「可愛かったよ。ありがとね、ご馳走様でした~。これで快楽に屈服。服従完了♪」


 その言葉だけが、サキュバスの作り上げた淫靡な空間に残響する。

 彼女こそが、元、《魔王》の一人、その名が冠するのは《姦淫王》であった。

 ヒツギは知らず、《魔王》の恐怖をその身に刻まれ、生物としての格の違いを見せつけられたのだった。


 ◇ ◇ ◇ 


「貴様の呪われし力を他国に渡すわけにはいかない。貴様はアーガス王国のために《魔の森》で死に、アーガス王国の礎となるのだ。ふふふふ、ははははは!」


 ベントレーの陰湿な嗤い声と最後のセリフが脳裏をよぎった。


 眩しい。太陽の日差しで目が覚める。まだ躰が甘く痺れていた。

 躰に残る心地良い気怠さに、ヒツギは昨日行われた調教を思い出した。自分は眠りから覚めたのではなく、リリスによって無理矢理飛ばされた意識を取り戻したのだと。

 じんわりと汗が滲んでいる。躰の奥がじんじんと疼く。躰が無意識に異性を、悦楽を欲していた。首に性印を残されている。忌々しい呪いをかけられたようだ。


「んっ、あ、あぁ……」


 色々な体液が混ざって、べたべたした気持ちの悪い躰。

 初めてだったのに。好きでもない悪魔に貞操を奪われてしまった。

 最後は訳が分からなくなり、肌と肌が触れるだけで何度も達してしまった。


 あのとき強引に脱がされた服は、皺もなく綺麗に着せられている。

 リリスに犯されたのが陽の沈みかけた夕方。そして今は朝だ。

 あのままずっと失神して、意識を失っていたのだろう。


 倦怠感は拭えないが、同時に肉体的には精力が漲り、傷も癒えている。

 これなら一人でも魔の森の探索を続けることができそうだ。


 ヒツギは、アーガス王国から課せられた使命、魔に選ばれた《十二界王》――《魔王》の一人、《不死王》ルナ・バートリーを殲滅しなければならないのだから。


 そのための一歩を踏み出そう。例え行く先が地獄だったとしても、前に歩み始めた以上、引き返すべき道はいらない。もう帰る場所も、待っていてくれる人もいないのだから。


 ゆっくりと少し歩き、リリスが張ってくれていた結界に内側から強烈な魔力を流し込むと、ゼリーが崩れるようにどろりと溶けて、霧のように霧散した。

 相手が悪魔とはいえ、これだけは礼を言わなければならない。


「ありがとう、リリス・レェチャリィ。だが、俺はお前が嫌いだ」


 無理やり躰を開発されて、快楽の虜にされた。そればかりでなく、右手の甲にハートマークの《淫紋》などという、いやらしい性奴隷のような呪いまで刻まれて。


 散々喘がされて悔しい思いはしたが、それでも彼女の躰は温かかった。

 それが一人寂しく、この魔の森に取り残された自分の身にはとても優しくて。

 なぜか彼女のことを恨み切れない自分がいた。もし今度会ったらなんて言おう。

 そんなことを考えている自分がいた。どこかでリリスとの再会を望んでいた。


「さてと、じゃあ行くか」


 そうは言っても、どこに向かったものか。

 アーガス王国兵はみんな死んでしまったので、ここからは一人旅だ。自分が今いる位置も把握していないし、標的である《不死王》ルナ・バートリーの居場所も分からない。


 アーガス王国の調査の結果では、彼女は魔の森の東寄りの位置に居城を構えており、その魔城の名を《ブラッドムーン》というらしい。《眷属》と呼ばれる配下も大勢従えているので、一人で倒すことは不可能だろう。そもそもタイマンでも勝てるかどうかも怪しい。


「ならば、こちらもここで兵力をここで補充しておくか。今の俺にはもう《屍術》を使うことに対する躊躇いはない。これも俺の力だ。使えるものは、すべて使わせてもらうぞ」


 リリスのおかげで全身に力が漲っている。魔力の流れも十分だ。


「《屍術》――《下位アンデット作成》」


 周りに転がっていた、アーガス王国兵たちの死体がゾンビとなって立ち上がった。


「《操眼》! 《死体操作》」


 自らの王国兵の屍を、紅に輝く魔眼で操る。そのまま三十分ほど、アーガス王国兵の屍を縦横無尽に操作し、死体の動かし方のコツを掴んだ。


「よし、後は……《地獄門・屍檻》」


 地面に浮かび上がった禍々しい漆黒の扉に、屍達は飲み込まれていった。

 ちょうど、ヒツギが屍術を少しはものにしたとき、一体の魔物が目の前に現れた。


 ケルベロス。地球ではギリシャ神話に登場する犬の怪物である。

 ハデスが支配する冥界の番人にして、底なし穴の霊。屍術の使い手であるヒツギに対してかなり相性が良い。是非とも殺して、配下として加えたい。


 アスガルドでも、ケルベロスは冥府の門を守護する番犬であるとされ、三つの頭を持つ魔獣だ。犬とは言っても、その姿はおぞましく、竜の尻尾と蛇の鬣を持つ、獅子のような猛獣である。ケルベロスは地獄における三位一体の象徴とされ、その三つの頭はそれぞれが、『保存』、『再生』、『霊化』を表し、それは本来死後に魂が辿る順序を示している。

 益々、ヒツギにとって相性の良い魔獣だ。


「こいつを、最初の配下に従えよう」


 施しは受けない。

 自分の『駒』は自分で揃える。

 ここから『屍の軍勢』を築く。


 ◇ ◇ ◇


※はい。恒例のHシーンスキップです。

 無念、15000文字書いたんやで……



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