第12話 変易の前触れ

 ※前回、二人はセッ○ス寸前まで行きました。本番はなしです。というか、書いた(5000文字ほど)けど消された。……表現の自由とは?


 ◇ ◇ ◇


「せ、せんせい……先生……ヒルデ? か……」

「もうっ、酷いじゃないですか、若様。私、経験ないんですから、優しくしてください」


(――な、何をやっているんだ、俺はぁあああ!? ああああああ! ……死にたい)


「躰は快楽に屈しても、心までは若様のものにはなりませんよっ!」

「………………ん?」


 よく考えたら、ヒルデと目が合ったときに、強力な《催眠魔術》をかけられた気がする。


「くっ、殺せ! どうせ飢えた野獣のように、私の瑞々しいスケベな躰を犯し――」

「…………そんなに死にたいのなら、今すぐ殺してやるよ、先生」


 ヒルデの言葉を途中で強引に遮り、自らの手に迸る紫黒色の球体を発生させる。


「……え? ちょ、ちょっと待った! マジですか!? 本当に殺すの? 嫌だぁ! やめてぇえええ! 処女のまま死にだくないぃいいい! せめて結婚してください!」

「遠慮します」

「愛人でもいいから」

「金と権力目当てだろうが」

「ひいっ!? ヤることだけヤって殺られるぅう! 絶対に誰にも言いませんからぁ!」


 涙ながらにヒルデが必死の逃走を図る。

 そしてそれを全力で追うヒツギ。

 他に目撃者はゼロ。

 当人を始末すれば、この黒歴史は消える。

 よってヒルデにはここで死んでもらう。


「ごめんなさい! ごめんなさい! 私が催眠術をかけましたぁ! 許してぇえええ!」


 さっきまで、男と女の良い雰囲気で、危うく一線を超えそうだった者同士とは思えないほど、そこからは殺伐とした追いかけっこという名の、一方的なデスゲームが始まる。

 快楽で腰が抜けたヒルデは転移系の魔術で逃げた。

 この先のヒツギの人生は破滅だ。


 ◇ ◇ ◇ 


 結果的にヒツギの人生は破滅しなかった。

 あれはあれでヒルデも恥ずかしかったらしく、誰にもあのことは話してはいないらしい。しばらくヒツギを見ては顔を赤くして股を押さえていた。

 というか、よく考えたら一国の王子に《催眠魔術》をかけて意識を乗っ取り、無理矢理自分を襲わせようとしたことが世間にバレたら、冗談抜きでヒルデが処刑されてしまう。

 そんなわけで、ヒツギとヒルデはそれからも仲良く、それでいてバイオレンスな日々を過ごした。


 そして、二年と少しの歳月が過ぎ、ヒツギの十五歳の誕生日がやってきた。

 魔術学園で二年連続最優秀成績を誇り、多くの優秀な学友に恵まれて過ごした学生生活も、もう一年も残されていない。

 優れた魔術師が、十五歳の誕生日を迎えるときに発現する《固有魔術》。間違いなく、ヒツギにもこの世界から、何かが授けられる。


 それは特殊な黒い魔鳥、ムルムルがその能力名と具体的な用途を告げる。

 それをアーガス王城で毎年開かれる、ヒツギの生誕祭で行うことに決まった。

 ヒツギの固有魔術は、アーガス王国民だけでなく、他国にも知られてしまうことになるだろう。だが、国王である父ルークは、類い稀ない才能を持つ魔術師である、ヒツギの力を他国に喧伝し、争いの抑止力にしようという考えだった。


 ただでさえ、ヒツギ・フォン・アーガスが魔術の天才であり、歴代でも最高クラスの戦闘能力を誇る王子だということは、バベルニア大陸の多くの国と町の長が知っている。

 そこに加わる新たな力が――《固有魔術》。

 一体どのような力が発現するのかは分からないが、きっと誰もが驚くような強力なものであるに違いない。

 それが、アーガス王国のトップとその重鎮たちが下した結論だった。

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