第11話 先生と生徒

 向こうは接近戦で来るのを読んでいる。

 だからというわけではないが、ここは中間距離での魔術戦に挑む。

 近距離での肉弾戦では、自分のほうがヒルデより強いのはすでに分かりきっている。彼女が見たいのは、距離を開けての、魔術師同士の魔術の撃ち合い。

 ヒツギのその技量。この三年でどれだけ成長したか。それを今から見せる。


「行くぞ! 《シャドウボール》」

「その程度の魔術では、私には勝てませんよ! 《インフェルノ》」


 紫黒色の光球が、ヒルデの炎弾に吹き飛ばされる。火の粉がこちらまで飛んで来た。

 ヒルデが得意な闇属性と水属性だけでなく、火属性でもこの威力。


「なら、これで……捉えろ! 《千影手せんえいしゅ》」


 闇から生まれた、千本の影の手がヒルデに襲いかかる。

 しかし、ヒルデは空中でそれを巧みに躱しながら捌き、体勢を整えて次の術に移る。


「水光混合魔術! 《アジュール閃光フラッシュ》」


 蒼い煌めきが無数の影の手を消し飛ばし、強烈な光でヒツギの目が眩み、一瞬意識を失いかける。たたらを踏んだところに反撃の一手が襲う。


「ふふのふ♪ 隙ありです☆ 《石弾ストーンショット》」


 速度重視の小魔術で、ヒツギの肩を石の砲弾が撃ち抜く。体勢が崩れたところを、


「これでお仕舞い! 《皇帝鮫エンペラーシャーク》」


 巨大な鮫型の蒼い魔素エネルギー弾が襲いかかる。だが、


「光を飲め――《ディストーション》」


 強烈な魔力の放出で空間を歪ませる。

 ピンポイトでの魔術の無効化。


「いつの間にそんな離れ業をやってのけるように! これが切り札ですか。成長しましたね」


 ヒルデが驚きに目を見張る。

 その後、感慨深く目を細め、笑みを浮かべた。

 範囲は狭いが、完全に魔術を打ち消したのだ。

 常識では考えられない大技である。


「それでも、この大規模魔術は打ち消せないでしょう! 多少の怪我は覚悟してくださいね、若様! 砲火ほうか――《天火爆撃てんかばくげき》」

「そちらこそ、しっかり守りを固めてくださいよ、先生! 《暗黒凶星ダークディザスター》」


 火属性の極大魔術と闇属性の極大魔術が衝突。

 大きな爆発が起こり、辺りの岩を破壊し削り吹き飛ばす。粉塵が濛々と立ち込め、付近の瓦礫すべてが粉々になり更地となった。

 周囲には砕かれて舞い上がった無数の岩が。この地の成れの果てと示す。

 視界が晴れた先では、ヒルデが水属性魔術の防護壁、《アクアウォール》で自分の体を守っていた。対するヒツギも、闇属性魔術の絶対防御、《地獄門》でしっかりと余波によるダメージを防いでいる。


「まさか、自分より八歳も幼い子供相手に、火属性の極大魔術、《天火爆撃》を使うことになるとは思いませんでしたよ。成長しましたね、若様」


 本当に嬉しそうに、まるで自分のことのように、ヒルデが笑顔を見せる。


(……これだ。これが見たかった。三年間お世話になった先生の、ヒルデのこの笑顔が)


 彼女に、ヒツギ・フォン・アーガスと出会えて良かったと思って欲しかった。


「じゃあ、もういいよな。本気を出しても。『切り札』を使うぞ」

「……は? はいぃ? 切り札は、さっきので終わりでは? え? まさか、この展開は、いつもの……」

「ええ、俺は先生の驚いた顔を見るのが好きですから」


 快活な笑顔で、ヒツギは本心からそう言う。


「あ、あの~、私、負けたらどうなるのでしょうか?」

「怖いのか? もう負けたときのことを考えているとは、負け犬の思考だな。この雌犬」

「わっ、私も一端の魔術師だぁあ! こうなったらやってやんよぉおおお!」


 彼女が見せる驚きには、いつも期待と歓喜が入り混じっている。ヒルデは生粋の魔術師だ。魔術師の本能が、もっと高みの領域を求めている。


「俺が先生をもっと上のステージに連れて行ってやる!」


 闇属性魔術の《ショートジャンプ》を発動し、瞬間移動でヒルデの背後を取る。


「読んでいますよ。いまさら近接戦ですか、懲りませんね! 《水神拳》!」

「これが真の切り札! 《虚空暗黒領域ヴォイドフィールド》」


 ぞぞっと広がる闇。蜘蛛の巣を張り巡らせるように、確実に標的を網に捕らえる。

 自身の半径三キロメートル内の、すべての魔術師の魔術を無効化する、ヒツギが編み出した究極の闇属性魔術。魔術師の存在ごと否定する、もはや魔術を超えた呪いの類。


「なっ!?」

「俺は踏み越えてみせる。限界の、その先を……!」


 無属性魔術の《肉体機能増幅》と水属性魔術の《水神拳》。その両方を打ち消され、武術経験の浅いただの正拳突きになったヒルデの拳は、いとも簡単にヒツギに払われる。

 ここから先は、魔術なしの『武』の世界。

 ならば、決着は一瞬で着く。


「終わりだ。秘門――《六大開ろくだいかい虎撲こぼく》」


 六種の型からなる中国拳法の戦闘理論、その運用法の一つ。

 ヒツギは震脚を踏みながら、両掌をヒルデの胸に叩き込む。

 本気で撃ち込めば、胸骨をへし折り、呼吸と心臓を止める大技。

 それが直撃する寸前のところで止める。

 あまりの迫力に空気の流れが変わった。

 一陣の風が吹き、猛烈な覇気が飛び散る。


「……ま、参りました。私の負け、です。若様……」


 ヒルデの口から降参の声が上がった。


「じゃあ、ご褒美をもらおうか。いつもされているセクハラの仕返しだ」


 ヒルデのすぐ近くに寄ると、芳醇な雌の香りがする。

 ヒツギももうすぐ十三歳。思春期真っ盛り。心も体も男になる時期。

 というか、そもそも元は十八歳だ。七歳のときにこちらで意識を取り戻したので、精神的にはすでに二十歳を超えていると捉えてもいいだろう。

 一度、性的な目で見てしまうと、ヒルデの躰はとても魅力的で、理性が飛びそうだった。

 紅花のせいで、ヒツギは元から年上好きだ。ショタコンのヒルデとは相性が良い。

 ヒツギは突き出した両手のひらで、そのままヒルデの大きな胸を揉みしだく。


「あっ……ん、ぅ……っ……あ、あああ、ん……ふ!」


 ヒルデの胸に触った途端に、彼女の声が跳ね上がった。

 間近で見ると痛感する。相変わらず凄い迫力だ。ぷるんっとしているのにこの重量感。

 むにっむにっとした柔らかな感触。服越しでも少し指に力を入れると沈み込み、離そうとすると、ぽよんっと跳ね返ってきて自分からまた触って欲しそうに吸い付いてくる。

 大きくて張りのある、それでいて若々しいおっぱい。凄い。色々と凄い。


「なんだ、この柔らかさは……! この柔らかさでどうやって形を保っているんだ? というか、先生。教え子との大事な決闘に、ノーブラで挑んだんですね。この変態」

「ひっ、ぁっ……あっ、ん、んんっ……んぁ、あっ、ぅうぁ……」


 ヒツギの指の動きに合わせて、ヒルデの躰がビクビクっと震えた。眼鏡越しに覗いた目は潤み、頬が紅潮している。その妖艶な唇からは少女のような甘い吐息を漏らしていた。


「今まで散々行ってきた俺への変態行為を悔い改めろ。反省しろ、このデカ乳教師」

「ごめんなさいぃ、ヒルデちゃんはおっぱいが大きいだけのダメな先生ですぅ……」


 ドクン、ドクン、ドクン、と期待に満ちた心臓の音が聞こえる。

 女性が気持ち良くなれる場所や愛撫の仕方は知っている。なぜなら、『師』である紅花と一緒にお風呂に入ったこともあるし、夜はマッサージをさせられていたからだ。彼女と本番行為をしたことはなかったが、いわゆるそういうことは何度もしていた。

 むっつり生娘のヒルデと、紅花に仕込まれたヒツギでは、性への経験値が違い過ぎる。




 ◇ ◇ ◇


 ここから先はおそらくR18なので、シーン飛ばします……。表現の自由とは……。

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